もはや、これは奇書の部類に入るのかもしれない。
内容はというと、大槻ケンヂ氏が小学生時代に受けた江戸川乱歩の作品を通して伝わる厭世癖、犯罪でしか世の中と繋がれない悲しい犯罪者たちへの共感にも似た感情が書かれたものだ。大槻ケンヂ氏は乱歩のことを一流のコピーライター、或いは「暗黒尾崎」と呼んでいる(暗黒面を醸し出す尾崎豊の意)。
乱歩の作品に出てくる多くの犯罪者たちが今で言うひきこもり、ニートに似た環境にいる事も、この本では指摘している。乱歩も晩年、犯罪という世界に憧れそれを小説に昇華したという様なことを残しているという。これは、ひきこもり、ニート=犯罪者予備軍という意味合いでは使われていなく、ただ、当時の乱歩が描く犯罪者たちはそういった面も持っているという意味で使われてある。誤解のないように。
また、大槻ケンヂ氏は『パノラマ島奇談』を表のベストワンにあげており、裏のベストワンは『蟲』であるという。これは、表は一応の乱歩マニアとしての体面を取れるが、後者の作品は、あまりにも「この人ヤバい」と思われかねないので、あまり人に言わないようにしているという。
他にも、江戸川乱歩と某ハリウッド映画監督の共通性を説いたりと、読んでいるうちに果たして俺は乱歩を読んでいるのか、オーケンを読んでいるのかとまるでパノラマ島に迷い込んだかの如く読後感のある毒々しい一冊となっている。
編集者であり、乱歩の実の孫の平井憲太郎氏のインタビューや、乱歩の短編小説『鏡地獄』『押絵と旅する男』『踊る一寸法師』『人でなしの恋』が収録されている。
読書感想文のまだ決まっていないそこの君、一気に読めるので、トラウマに浸りながら宿題もこなせる夏の一冊はこの一冊だけだ。
(オタク電脳記者 天驚院勝彦 山口敏太郎事務所所属)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou