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ジョン・ヘンリー伝説の謎

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ウェストバージニア州サマーズ郡タルコットの町にあるジョン・ヘンリーの彫像

 アメリカの有名な民間伝承に「ジョン・ヘンリー伝説」がある。それは、黒人奴隷が解放されたあとの19世紀末、鉄道建設現場に蒸気工作機械が導入されることとなり、多くの黒人を含む非熟練労働者が一方的に解雇を通告された。それに対し、力自慢の黒人「ジョン・ヘンリー」が「機械と勝負して、俺が勝ったら解雇を撤回してくれ」と持ちかけ、岩山にトンネルをうがつなどして見事に勝利するものの、直後に彼は死んでしまったという内容である。

 荒唐無稽にさえ思える伝説ではあるが、民間伝承としての面白さや時代性があり、アメリカで広く流布したのもわからなくはない。だが、意外にも実話に基づいていると主張する研究者がいるのだ。

 研究者らは当時の地名や鉄道建設の記録などを根拠として、ジョン・ヘンリー伝説のもとになる事実が存在していると結論づけている。だが、それはあくまでも書誌的な研究であり、果たして物理的に可能であったかどうかという検証は行われていない。いちおう、伝説に登場したような蒸気工作機械は19世紀末の鉄道工事現場で運用されており、能力的にも人力を大きく上回るほどではなかったことが明らかとなっている。

 具体的に説明すると、犬釘打機の場合は打ち込み能力こそ高かったが、機械が自力で打ち込み位置へ移動できないため、打ち込むたびに移動と位置決めが必要だった。また、掘削機も映画などに登場する巨大なドリルを取り付けたものではなく、細い削岩ドリルで穴をうがち、そこにダイナマイトを仕込んで発破するような機材であった。ただ、発破してしまえば勝負どころではなくなるため、地味に少しずつ少しずつ掘り崩すこととなっただろう。

 そのため、体力さえ続けば犬釘打ち込みでもトンネル掘りでも勝算はあるのだが、問題は勝負の形式というかルールである。伝説では、日をまたいで勝負が続いたか否かも定かではないものの、徹夜で続いたなら「見守る立会人が疲れてしまう」だろう。あるいは、日没後は睡眠時間を取ったかも知れないが、それだとなにか違うような気もするし、数日に渡って現場を止めるようなことを雇用者が許したかどうかも疑問がある。

 もし、実際に勝負が行われていたとしても、犬釘打ち込み機はひとつひとつ移動させながら打ち込み、削岩機も細い穴をいくつもあけて崩していただろう。他方、ジョン・ヘンリーは調子よく犬釘を打ち込み、ハンマーで岩を砕いていたわけだから、冷静に考えればかなり呑気な勝負の風景である。

 案外、伝説の真相というのは、そのようなものかもしれない。

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