クライマックスシリーズ(CS)を終え、セ・パ両リーグの日本シリーズ進出チームも決定した。そのCSの最中、パ・リーグを取材していたら、複数の球団スタッフに巨人・原辰徳監督(61)について質問を受けた。特定の担当球団を持たず、全球団をフォローするスポーツメディアの遊軍記者も“逆取材”があったそうだ。
対戦する巨人の情報を集めるためかと思ったが、そうではなかった。「原監督が変わった」というのだ。
「原監督は3度目の指揮、過去12年の采配を見ているので、普段、対戦のないパ・リーグでもどんな監督なのかは分かっているつもり。今季の原監督は明らかに今までとは違う」
これは、CSファイナルシリーズで敗れた埼玉西武のスタッフがこぼしていたセリフ。シリーズで対戦する福岡ソフトバンクも同様の感想を抱いているようだ。
「ピリピリしたものがなくなったというか…。我々の知っている原監督は、チームの好不調で雰囲気が明らかに違っていました。負けが込んでいるときはイライラしていて、連勝中はすこぶる上機嫌で。善くも悪くも分かりやすい指揮官でした」(パ・リーグ関係者)
3度目の指揮、2015年の退任から3季が経過しているので、選手も入れ代わっている。昨秋キャンプ、春季キャンプ中の私見を言わせてもらえば、選手に話し掛ける場面が多くなったように映った。前政権にはいなかった新しい選手たち、特に若手を知りたいと思ったのだろう。
「20代の選手たちがそうですが、原監督のご子息よりも年下です。また、原監督は彼らの父親よりも年上なんですね。そういう世代と話をして、今までのやり方、第二期政権と同じことをやっていたら勝てないと悟ったようです」(チーム関係者)
どの球団の監督もそうだが、「褒める、叱る、諭す」といった方法で選手を育てていく。怒って伸びる選手もいれば、その反対もいる。それを見極めるのも大切だが、原監督は20代の新しい選手と接し、これまでと違う感想を持ったという。「褒めても、叱っても、同じ反応が返ってくる」と。父親よりも年上、かといって、祖父母よりは若い。そういう年齢の“上司”に叱られても、喜んでいたという。
「原監督の現役を知らない世代です。(第二期までの)12年も監督を務めた人に声を掛けられたので、喜んでいたみたい」(前出・同)
こうした反応に原監督も驚いていた。しかし、浮かれてはいなかった。原監督は「一軍戦力にレベルアップさせるには、どう接していくべきか?」と考え、“全て”を教えなかった。たとえば、二塁手が「4−6−3」の併殺プレーを成立させなかったとする。その時は「二塁ベースへの送球が遅い。ショートの坂本が一塁に送球しやすいように投げたのか?」と問う。指摘された若手は遊撃手と二塁手の呼吸の大切を知り、そこから先の再現練習は守備担当コーチに託した。コーチも「練習量を増やせば良いというものではない。どんな練習が必要なのか、自分で考えてみろ」と指導したそうだ。
原監督の第二期政権までを知るセ・リーグの対戦チームは、今季半ばから「巨人が強くなったというよりも、原監督が変わった」と思い始めたそうだ。60歳を過ぎて、考え方を変えるというのは並大抵ではない。しかし、組織を統括するリーダーとして柔軟な発想を持つことは大切だ。
新しい原野球を知らないパ・リーグは警戒心を強めていた。(スポーツライター・飯山満)