都内の銭湯ならどこにでも置いてある無料の銭湯マガジン、その名も「1010(せんとう)」は、東京都公衆浴場業生活衛生同業組合が発行していて、09年4月で97号を迎えた。「銭湯人インタビュー」(この号は二ツ目の落語家三遊亭時松さん)なるものや、「嗚呼、女湯万歳」と名づけた色物や、都内の銭湯リポート「TOKYO銭湯物語」なるコーナー、なかでもこれはうけるだろうと思われる「銭湯検定4級対策」など盛りだくさんだ。
なかに、風呂上がりに一杯という趣旨で「なかだえりの湯あがり酒場」という見開きページがある。4月号の湯あがり酒場が「まつもと」。「いつでもここで憩える世田谷区民はうらやましい。飲んで食べて大満足でお会計。その安さといったら申し訳ないほどだ」と、熱烈な幸せのおすそ分け。味わいのあるイラスト画には、カウンター上にところ狭しと並べられた大皿料理と、それらを前にしてじつに良い顔をされている丸顔のご亭主。これは行かずばなるまい。
茄子(なす)の煮びたしをはじめとして大皿料理を4品、刺し身は赤貝をそういう。煮物のいずれも旨(うま)い。手がかかっている。熟練の味だ。赤貝は2個。身はぐりんぐりんの歯ごたえ、肝は太く黒緑色で苦甘い。
感服しながら顔には出さず、わたくし一見(いちげん)の客ではございませんというふりをして飲んでいたところ、連れの女子が無邪気なもので、カウンターのご亭主に向けて、お店紹介のページをひらひらかざすではありませんか。
いやあ、はっはっは、と照れるご亭主に、カウンターの常連さんたちが色めき立つ。なんだそりゃ、おらあ聞いてねえぞ、やれ見せてみろ、おれにも貸せ、こっちもだ、と大騒ぎ。押し合いへし合い、ひとしきり雑誌がゆきわたり、紹介記事は誉めすぎだと、ひとしきり店のあれこれをやり玉にあげ、絵はいい男に描かれ過ぎだと、ひとしきり松本さんをくさし、やがて飽きるとそれぞれもとの話題へ帰っていった。
客たちは愉快で騒々しく、飲み屋の客らしい客だった。主の松本さんはそんな客を、風に柳と受け流していた。酒場「まつもと」の主と客は、じつにいい芝居をしている。ぜひまた飲みに伺いたいのものだ。
ちなみに「1010」は、池尻の第二淡島湯というところで入手した。ズック地のバッグに銭湯用品一式を入れて持ち歩いているけれど、お散歩していて成分分析表が表示された天然温泉に出くわしたときの喜びったらない。入浴料(都内均一450円)が値千金となる。
第二淡島湯は、いかにも東京の温泉らしい黒湯だった。女将(おかみ)から、関東ローム層が育(はぐく)んだ都内の黒湯の濃淡は海からの距離に正比例していること、男湯女湯とも気泡風呂の噴き出し口から飛び出てくる湯が源泉であること、などとご教示をたまわった。この黒湯にも再度、漬かりにこなくてはなるまい。
予算1700円
東京都世田谷区世田谷4-4-3