稲葉監督が6月20日、甲子園球場で行われた阪神対東北楽天の試合を視察し、左腕・高橋遥人(23)を絶賛していたのは既報通り。ジャパンのエース・菅野智之が不振に陥っている以上、若手投手の見極めは重要となる。稲葉監督は同行した建山義紀・代表投手コーチとの会話も明かした。
「もしジャパンに入るなら、どこで使っていくのかという話もしながら…」
このまま行けば、高橋遥の招集は間違いないだろう。
視察をした交流戦に限って言えば、同じサウスポーでも、巨人・今村、東北楽天・塩見の方が高橋遥よりも防御率は「上」だ。それでも、高橋遥を絶賛した理由は“個性”だ。プロ2年目の高橋遥はまだ粗削りな印象も受けるが、低めにも「強いボール」が投げられる。制球難で自滅し、連打を食らうこともあるが、稲葉監督、建山コーチは「打たれてもシングルヒット」という点に着目していた。
「左投手の補強は重要課題の一つでした。前回WBCで要所を任されたピッチャーは、菅野、千賀、牧田、則本、平野など。救援には楽天の松井裕もいますが、左ピッチャーの人員増は必要不可欠でした。先発も務まるとなれば、なおさら」(球界関係者)
しかし、稲葉監督が求めていた「左」はピッチャーだけではなかった。稲葉監督は視察先で記者団に囲まれている。そこで、売り出し中の若手や、好調な中堅・ベテランの名前を挙げてきた。前出の関係者によれば、それらのコメントは自身が発言すれば活字になることを見越してのものだったという。つまり、リップサービスだ。
「ウソは言っていません。目標は東京五輪での金メダルと、次回WBCでの優勝。当面の課題は、今年11月に開催される『第2回プレミア12』で優勝すること。そのための選手選考を進めている最中です」(前出・同)
侍ジャパンは、クリーンナップを任せる大砲候補の人選も抱えている。DeNA・筒香嘉智、北海道日本ハム・中田翔を中心とした打線が前回WBCでは編成されたが、筒香に関しては、今オフ、ポスティングシステムによる米球界挑戦が噂されている。
筒香クラスの左の大砲は、なかなか現れない。ヤクルトの新星・村上宗隆、日本ハム・清宮幸太郎は経験値が浅い。いや、浅すぎる。稲葉監督と侍ジャパンのスタッフがリップサービスをせず、ここまで温めてきたのが、丸佳浩(30)の再招集だ。
丸は2016年の台湾との強化試合以降、侍ジャパンから招集されていない。
話は4月5日にさかのぼる。稲葉監督は横浜スタジアムでの巨人戦を視察している。どうやら、そこで原辰徳監督や巨人スタッフと『内々だが』と前置きし、丸の状態、打撃面の調整方法などを事細かに確認していました」
丸にも独自の個性がある。丸の打撃フォームはバットを持った手を上下させ、投手側に少し体を移動させながらスイングする。ここまで積み上げてきたプロ生活の中で、編み出したというか、たどり着いた打撃スタイルだが、最大の特徴は、自身の体の近くで変化球にも対応できること。つまり、外国人投手特有のムービングボールに対応できる左のスラッガーなのだ。
「外国人投手は直球を投げたつもりでも、バッターの手元で小さく変化します。このムービングボールに日本の各バッターは苦戦してきました」(前出・同)
丸について、こんな情報も聞かれた。
「広島時代の丸は試合中に手帳を広げ、対戦投手に関して感じたこと、変化球の軌道などを記していました。メモは今も続けていますが、坂本勇人と話し込むことも多くなりました」(ベテラン記者)
二人の会話の詳細は分からないが、打撃や対戦投手のことを話しているという。今季、坂本は打撃好調だが、丸に触発された部分もあり、丸も巨人に移籍しても自分の打撃を見失わなかったのは、坂本の存在があったようだ。稲葉監督が「坂本の三塁起用」なんて奇策を口にしたのは、侍ジャパンでも「左のスラッガー・丸」を生かす目的もあったのかもしれない。(スポーツライター・飯山満)