阪神は『投打』ともに世代交代の時期にある。金本の後継者となりうる大型スラッガー、ローテーションの若返りと補充を急がなければならない。8月、甲子園大会が始まったころ、坂井信也オーナーはメジャー視察のため、渡米している。帰国後、ヤンキースを観戦した感想として、「デレク・ジーターなど生え抜き育成の重要性を痛感した」と語ったそうだ。このオーナー発言に基づき、指名候補のリスト化が進められているという。チームを土台から作り直すとすれば、「1週間に1度しか試合に出られない投手」ではなく、「フルイニング出場可能な野手」を1位指名に選ぶはずだ。伊藤隼太外野手(慶応大)だろうか。2、3年の育成期間を費やしても構わないのであれば、高橋内野手だと思われる。
かといって、投手力を補強しないわけにはいかない。伊藤外野手で入札するとすれば、この時点で『ビッグ3』(藤岡貴裕=東洋大、菅野智之=東海大、野村祐輔=明治大)の獲得は諦めなければならない。おそらく、地方大学、社会人のなかから即戦力投手を見つけ、『プロ志願届』が提出されるのを確認し、高校生を大量指名するのではないだろうか。
夏の甲子園で評価を高めたのは、松本竜也投手(左投左打・英明)と釜田佳直(右投両打・金沢)の2人。歳内宏明(右投右打・聖光学院)、原樹理(右投右打・東洋大姫路)、伊藤拓郎(右投右打・帝京)などの有名投手はもともと評価が高かったので、今夏の大会は「確認」という意味合いも強かった(地方予選を含む)。高校生投手を将来性で何人か指名するとしても、即戦力か、それに近い投手も補強しなければならない。「山本宣史スカウトが昨秋、奈良産業大学・河津尚幸投手(左投左打)を視察した」との目撃情報もある。同スカウトは今夏の甲子園大会で松本投手を熱心に追い掛けており、投手を見極める眼力に長けていると聞く。河津投手は兵庫県市川高時代もドラフト候補に挙げられたが、当時は、投げ方が俗に言う「アーム式」だったので、阪神以外の球団も様子見で指名を見送った。河津投手の右打者の膝元を突く直球の角度に定評もあるので、一軍昇格までさほど時間は掛からないのではないだろうか。
中尾義孝スカウトが追い掛けている社会人投手の1人に、NTT東日本の小石博孝投手(左投左打)がいる。
小石投手はテイクバックの小さい、独特の投げ方でも知られている。今年4月の社会人野球・関東選抜リーグ(大田スタジアム)を観た感想を言わせてもらえば、右手のグラブに左手を入れたら、左腕をまわさないでそのまま押し出しているような感じだった。この投げ方で、140キロ強の直球とカーブ、スライダー系の変化球を低めにテンポ良く集めてくるのだ。強豪・三菱重工横浜の選手たちが『打者2巡目』でも、打ち難そうにしていたので実力は本物だろう。
ドラフトの情報は日々変わる。現時点では「野手1位」だが、ペナントレース終盤の戦い方如何では投手に一変するかもしれない。(了/スポーツライター・飯山満)