映画ではなく実際にも、寝ているはずの人が不可解な行動をする症状があり、それらは夜驚症や夢遊病と呼ばれたりする。寝たまま歩きまわったりする夢遊病は大人にもあるが、泣いたり叫んだりする夜驚症は子供に多い。僕も一時期はそれに悩まされた。といっても本人は状況を把握できていないので、困っていたのは家族の側だった。
とはいえ自分で覚えているものもあり、家族から聞かされたもの、その両方がある。「金縛り」は身体が動けなく現象だが、夜恐症で意識がある場合は「金縛り」に似ている。ただし動けないのではなく、身体が勝手に動いてしまう。自由が利かないという意味では「金縛り」と同じである。しかも動ける分、何をしでかすか分からないから、やっかいだ。
小学校高学年の頃、深夜になると奇声をあげて飛び起き、外に出ようとする。いつも深夜1時ちょうどだったそうである。従姉が遊びに来ていて「こういうときは名前や年齢や住所を聞くと正気を取り戻す」というので試してみたが、名前を聞いても年齢を聞いても住所を聞いても、自分の名前しか名乗らない。「どうしてキン肉マンは実在しないの?」といった意味不明の質問をすることもあったらしい。本気でキン肉マンが実在すると思っていたわけではないから、自分でも不思議だ。
実は来る日も来る日も同じ夢を繰り返し視ていた。滝に打たれ修行する白装束の女性や、高い塔に幽閉された髭もじゃの老人。人類の歴史を表す時計には針がひとつしかない。その針が再びゼロを示す前に何とかしなくてはならない。目を開けているから、そんな夢の光景と目の前の現実がオーヴァーラップする。家族が話しかけているのも分かるが、自由に動くことができない。
30分もすれば元に戻るが、それが4日も続いたので、お寺に相談にいった。お祓いをしてもらい「何か変わったことはないか?」と問われ調べてみると、祖母が「幸福になる印鑑」のようなものを購入していたことがわかった。それを処分すると、すぐに治ってしまった。その後、誰にも気づかれずに本当に外に出てしまっていて、道路の真ん中にパジャマ姿に裸足で立っていることに気付いて、家に戻ったこともある。
低学年の頃にも似たようなことはあった。高熱にうなされていて、天井が近づいてくる。それ上に連れて行かれぬようにと布団から出て部屋のすみに移動。壁のほうを向いて膝を抱えて耐えていたら、同じ部屋で寝ていた妹が目を覚まし、異常に気付いた。「お兄ちゃん、どうしてそんな所に座ってるの?」すると僕はこう答えたそうである。「ここは病人の座るところだ!」(工藤伸一)