「お子安さん」という子安地蔵は安産のご利益があり、西三河地方では女性が妊娠すると、お地蔵様にお参りに来て、腹帯を借りて帰る風習があった。毎年4月24日の縁日に氏子が集まって腹帯を作り、堂守が貸し与える。腹帯には白色と赤色の2種類があり、何色か分からないように袋詰めされる。持ち帰った袋の腹帯が白色なら男子、赤色ならば女子が生まれるといわれている。そして、お産を済ませると、お礼参りの時に腹帯を返却することになっていた。
今では、産婦人科での妊娠中期のエコー検査で、赤ちゃんの性別判断ができ、早い人だと五か月健診で性別がわかるという時代になっている。昔は男児が生まれるのと、女児が生まれるのでは、家督相続の問題や農家での労働力にも関わる一大事となった。
昔、ある夫婦が子安地蔵にお参りにきて、腹帯を借りていった。夫婦はどうしても男の子が欲しかったのだが、袋を開けてみると、赤色の腹帯が入っていた。諦められない夫婦はもう一度お参りに行って、腹帯を借りてきた。すると、今度は白色の腹帯が入っていた。数か月後、夫婦に元気な子供が産まれた。ご利益のおかげで安産だったが、生まれたのは女の子であったという。
また、明治時代初期の頃、子安地蔵の評判を聞きつけた男が、子安地蔵を盗んで売れば一儲けできると、この村へやって来た。深夜、辺りが静まりかえった頃を見計らって、地蔵堂に忍び込んだ。そして、お地蔵様を背中に背負い、縄で括りつけると、一目散に逃げ出した。しかし、男が一生懸命に走っても走っても、隠れ家に辿り着くことが出来ない。やがて、夜も白々と明ける頃、男はふと気がついた。男は地蔵堂の前で息を切らしながら疲れ果てて立っていたのだ。実は一晩中、地蔵堂の周りをグルグルと走り回っていただけであった。男は捕らえられ、お地蔵様は無事に地蔵堂に安置されたという。
(写真:「子安地蔵」)
(皆月 斜 山口敏太郎事務所)