前回のラストで秀吉は江に秀忠に嫁ぐことを命じた。徳川家との関係を強化したい豊臣家の政略のためである。江にとっては愛娘の完(栗本有規)と離れることも、反発し合っている秀忠と嫁ぐことも、秀吉の政略の道具にされることも承服できない話である。
家康(北大路欣也)の思いを聞いた江は、完を連れて行くことを条件に婚儀を承諾したが、後日、秀吉は一度認めた完を連れて行くとの約束を反故にしてしまった。江の思いは全て無視された形である。これは権力者の嫌らしい手口そのものである。相手の要求を何一つ聞く気がなく、相手が一歩譲歩したら、次の要求を重ねてくる。それに流されずに婚儀の解消で対抗する江は筋を通した。
その江を淀が説得する。淀の論理は「豊臣家で育てることが完のため」というものであった。「万が一、豊臣と徳川が対立する場合、豊臣の姫故に完は敵とみなされ、辛い立場に置かれる」とする。しかし、これは豊臣側の身勝手な論理である。豊臣家と徳川家の対立を考えるならば、なおさら親心としては愛娘を対立する家ではなく、手元に置きたくなる。
自らの死後の拾のことばかりが気がかりで、すっかり狂ってしまった秀吉と同じく、淀も豊臣の母となるという覚悟から思考に歪みが生じている。ここには後年の大阪の陣の悲劇につながる淀の性格の片鱗を見出せる。
宮沢りえは映画『たそがれ清兵衛』でヒロイン朋江を演じ、第26回日本アカデミー賞・最優秀主演女優賞を受賞した。朋江は自分から離縁を申し込み、貧しくても好きな男性に嫁ぐという当時の社会常識から外れた行動に出るが、その現代的女性さを感じさせない宮沢の落ち着いた演技が時代劇に溶け込んだものとして評価された。
『江』の淀も落ち着いているが、思い込んだら間違った方向でも突っ走ってしまいそうな怖さを内包している。外面は姫としての気品を保ちながらも、狂気を増していく宮沢の演技に注目である。
(林田力)