しかし今はどうだろう。現役女子高生によると、ネット社会世代のティーンエイジャーではYouTubeやニコニコ動画が人気で、テレビに魅力をあまり見出せていないようだ。こども部屋にテレビが置かれないことも今や普通の光景となっている。
クラスでの会話も趣味が多様化しており共通の話題はあまりなく、グループごとにさまざまなトピックで盛り上がっているという。
しかし年明けから異変が起きたという。多くのグループの話題が“米津玄師“になったのだ。米津が紅白歌合戦で“しゃべった“ことが高校生にとっては衝撃だったらしく、Twitterで“#米津がしゃべった“がトレンドになるほど注目を集めたため、多くのクラスメイトの共通の話題になったというのだ。
米津玄師といえば、『Lemon』の大ヒットで世の中に知れ渡り、今やCMソングでもおなじみの人気アーチスト。しかしおじさんたちにとっては“突然出てきたシンガー”程度の認識しかないかもしれない。だが若者たちには数年前から有名な存在であったという。それは米津がインターネットの活動が出発点で、“ボーカロイドクリエイター・ハチ“の名で成功を収めていたからである。ニコニコ動画で、あの初音ミクを使って作品を発表していたこともあり、若者たちにとっては身近な存在なのだ。
これまで米津が話すことを見る機会がなかったため、紅白の場で話したことが“事件“となった。テレビを見ない世代にも“米津は見たい“&“大晦日の紅白“のシチュエーションが合致し、注目度が上がっていたことも要因となり、クラスメイト共通の話題となったのだ。
「米津しゃべったの見た?」「見た見た!」の会話がグループ間の壁を壊し、クラスメイトでワイワイと話したという。これがきっかけとなり、クラスは年明けからいい雰囲気になったとのことだ。
ジャニーズやAKBグループでも、それぞれの“推し“が違うため、クラス内で共通の話題にはならなかったという。クラスを一つにするほどの米津の圧倒的人気は、インターネットから火がついたという身近さから、親近感がわき応援したくなる、というのもあるだろう。
実際に10代に米津の魅力を聞くと、それぞれの個性に応じたハマるポイントを持ち合わせているところにあるようだ。独特のメロディや歌詞、時にはこぶしを利かせたような歌い方をするなどシンガーとしての才能に惹かれる音楽好き、メディア露出の少なさからくる神秘性でハマる意識高い系。ボーカロイドのプロデューサー出身なので、ネット動画に精通している、いわゆるオタク系の人気も高く、『Lemon』のヒットで流行歌好きまで取り込んだ。
幅広い層に、多角的に高い支持を得ている米津こそ、ティーンたちの“時代のヒーロー“なのである。
文 / 萩原 孝弘