大河ドラマ50作目という記念すべき『江』は、戦国時代から江戸時代初期という時代劇としてメジャーな時代を扱う。主人公は江戸幕府二代将軍・徳川秀忠御台所の江(小督、江与、崇源院)であり、大河ドラマ視聴者層には著名人である。
しかし、江は知名度こそ高いものの、嫡男・家光を疎み、二男・忠長を偏愛したという程度しか知られていない。特に前半生を知る人は少ない。この点で2008年の大河ドラマ『篤姫』と類似する。『篤姫』も幕末というメジャーな時代を舞台とし、主人公の天璋院篤姫も知名度は高いものの、その人生が知れ渡っているとは言えない。
『篤姫』は「女の道は一本道」をキーワードに、フィクションも交えながらも、ホームドラマ風に描いた。それが特に女性の共感を呼び、幕末物は視聴率が伸びないというジンクスを見事に裏切る高視聴率を記録した。その『篤姫』の脚本家・田渕久美子が『江』の脚本も担当する。
第1話「湖国の姫」は、冒頭で成長した江(上野樹里)ら浅井三姉妹が登場したものの、江の生母・市(鈴木保奈美)が浅井長政(時任三郎)に嫁ぎ、江が誕生するまでが中心である。織田信長らを主人公とした大河ドラマならば数か月で進める展開を1話でまとめており、ハイテンポで進行したが、ドラマの雰囲気は表れていた。
それは時代劇であっても、登場人物が現代人に近い心情で話していることである。市は織田信長(豊川悦司)の天下布武に協力するために長政と政略結婚する。しかし、それは家のためというような封建的価値観からではなく、兄への愛のためであった。それを木下藤吉郎の妻おね(大竹しのぶ)に語らせている。しかし、嫁いだ後は長政の人柄に惹かれ、長政への愛を優先する。『篤姫』がホームドラマ風ならば、『江』はトレンディドラマ風である。
そのために従来の時代劇で繰り返し描かれてきた逸話も、テーマにそぐわなければバッサリと切り捨てている。たとえば市が金ヶ崎の戦いで袋の両端を縛った小豆袋を信長に送って浅井の裏切りを伝えた逸話や、万福丸の殺害、ドクロの杯などである。この点は歴史ファンから不満が出るかもしれないが、小豆袋については逸話を前提として大胆に再構成されており、物語として楽しめる。
『江』の公式ウェブサイトでは第2話「父の敵」の見どころとして、「織田信長に仕えるイイ男たちが登場! その名も、森蘭丸・坊丸・力丸。カッコイイ森兄弟を前にした初も、その美しさにメロメロ?!」と紹介する。戦国時代劇らしからぬドラマに注目したい。
(林田力)