「(観客の)入りの良さに驚きました」
とは答えたものの、それ以上は対応しなかった。
前出の関係者によれば、加藤コミッショナーは日本高校野球連盟(以下=高野連)・奥島孝康会長にも面会を求めたという。
「お時間の都合がつけば、是非…」
加藤コミッショナーは奥島会長を『日本シリーズ』に招待したいとも伝えたそうだ。
「奥島会長も和やかな雰囲気でしたよ。日本シリーズ観戦に本当に行けるかどうかはまだ分かりませんが、お二方のこの会合が、今後、『何かのきっかけ』に発展するかもしれませんね」(前出・関係者)
何かのきっかけ−−。
加藤氏がコミッショナーに就任したのは08年6月。2カ月ほど前、NPBが次期コミッショナーの本命候補であることを公に認め、駐米大使赴任期間が満了する6月まで待って、正式に就任要請している。現ソフトバンク球団会長の王貞治氏と懇意であり、「歴代コミッショナーのなかで、もっとも野球に造詣が深い人物」とも紹介されていたが、球界の改革のため、今のところ、何かをしたという話は表に出ていない。今回の高校野球観戦の目的は、一体何だったのか?
「NPBの高野連への歩み寄りでしょう。加藤コミッショナーは『話しやすい関係』を構築するための第一歩でしょう」(連盟職員の1人)
プロ野球と高校野球界の間には、さまざまな問題がある。プロ選手はたとえ母校であっても、後輩たちを指導することはできず、その規約は親子関係も例外ではない。また、元プロ選手が高校指導者に転職する場合も特定の期間と資格を得なければならず、プロ側はその障害解消も訴えてきたが、高野連側は学生たちが金銭トラブル等に巻き込まれる危険性と心配を払拭できないできた。
両組織のトップが信頼関係を築けば、難題解消の時間は大きく短縮できるだろう。加藤コミッショナーの高校野球観戦は意義のあるものと言えそうだが、こんな指摘も聞かれた。
「加藤コミッショナーは王会長に(観戦を)勧められたのかもしれません。王会長も母校の試合を観戦していますし、プロ側が歩み寄らなければならない必要性を訴えたのかもしれません」(マスコミ陣の1人)
王会長の人徳はアマチュア球界にも知れ渡っている。その王会長が一歩退いたかたちで両トップの会合を演出したとしたら、日を唱える者は誰もいないだろう。しかし、「加藤コミッショナーに任せて大丈夫か?」なる懸念の声もないわけではない。
「第2回WBCの日本監督を決めるのと前後して、加藤コミッショナーは12球団を表敬訪問しています。当時、星野仙一・阪神SDが北京五輪でメダルを逃し、『星野代表監督の連続登板』に懐疑的な声が出ていました。王会長の再登板が同時に噂され、加藤コミッショナーも『本命は王さん』と思っていたようです。でも、加藤コミッショナーは根回しをしなかったらしく、原辰徳監督に決まりました。加藤コミッショナーは外交官として大変優秀でも、球界におけるブレーンはいないのでは…」(前出・同)
かつて外務省を伏魔殿と称した大臣もいたが、プロ野球界も一筋縄ではいかない輩ばかりだ。王会長がその後ろ楯となるならば、何も心配はないだろうが、今回、加藤コミッショナーが投じた“友好の1球”を、高野連側がどう返してくるか、誰も分からない。もし高野連が日本シリーズを観戦すれば、王−加藤コンビの球界改革に乗り出すことになる。