左手で大栄翔の顔面を張ると同時に左上手を取った白鵬は、そこから右腕で頭を押さえながらの上手投げで大栄翔を完封。時間にして約2秒程度の“秒殺劇”で難なく白星を挙げた白鵬は、平幕・正代、関脇・栃ノ心と共に初日からの5連勝を飾っている。
初日の玉鷲戦以来、今場所2回目となる張り手を繰り出した白鵬。ただ、こうした白鵬の取り口は以前から疑問視されており、この日の取組後もネット上では不満の声が多く見られた。
ファンのみならず、横綱審議委員会からも厳しい目を向けられている白鵬の張り手。こうした批判の影響からか、今年の初場所時点では封印していたその“得意技”を、なぜ白鵬は再び解禁し始めたのか。そこには、今年4月に自身の父であるジクジドゥ・ムンフバト氏が亡くなったことも関係しているかもしれない。
モンゴル相撲の横綱であり、同国初のオリンピックメダリスト(1968年メキシコ・男子レスリング銀)でもあったムンフバト氏。その偉大な父にいい報告、すなわち“優勝”を届けたいという白鵬の並々ならぬ決意は、複数メディアによる報道からも広く知られているところだろう。
白星を積み重ね、賜杯を掴み取る。偉大な父に捧げるこの“ミッション”を達成するため、白鵬は少しでも勝つ確率が高い相撲を取りたいところ。では、今の白鵬にとって“勝つ確率が高い相撲”とは何か。それは何を隠そう、張り手の乱発である。
前回優勝を果たした昨年の九州場所(14勝1敗)において、白鵬は全15番中13番で張り手を繰り出している。一方で、張り手を封印して臨んだ初場所(2勝3敗10休)は、3・4日目に連敗し5日目(不戦敗)から途中休場。これらのデータは、白鵬の勝率に張り手の有無が大きく関わっていることを物語っている。
全ては、天国の父のため――。批判されると分かっていても、背に腹は代えられないのかもしれない。
文 / 柴田雅人