主人公は中学生の五十嵐丸太である。震災で大部分が水没した東京から地方に疎開して平凡な生活を送っていたが、無実の罪で「デッドマン・ワンダーランド」に収監される。監獄内では囚人同士に強制される決闘・死肉祭(カーニバル・コープス)など理不尽な出来事が連続する。
しかし、囚人達も虐げられるだけではない。良識派の看守らを巻き込み、刑務所長の玉木常長を追い詰めていく。この巻は満身創痍となりながらも、主人公側の反撃という希望を抱ける展開を受けたものだが、新たな絶望と混乱を提示した。玉木との戦いには決着がつけられるが、玉木も踊らされた一人に過ぎなかった。
『デッドマン・ワンダーランド』は漫画版『交響詩篇エウレカセブン』を手掛けた二人によって2007年から連載が開始されたが、大震災による社会の荒廃という現実の先を行く設定で注目度が急上昇している。
震災のリアリティを追求した作品ならば他にも『太陽の黙示録』などがある。それらに比べると、『デッドマン・ワンダーランド』は血液を操って戦うなどファンタジー色が強い。それでも細部に不気味なリアリティがある。たとえばネット依存症の引き籠りが震災時の停電でパソコンが使えなくなり、自分の世界が壊れたと絶望するシーンがある。これは伝統的な災害被害の視点では出てこないものである。
一方で東日本大震災直後の時期に地震を描写した作品を刊行することに対し、作者には躊躇があった。片岡のブログ「片岡商店 人生支店」の3月23日付記事「デッドマン・ワンダーランド9巻について」では「揺れに対して恐怖等感じている方は買い控えていただければと思います」と述べている。
編集担当者に地震の描写を9巻から削除し、10巻に回すことができないか提案したが、印刷も完了しており、無理との回答であったという。ブログ記事では「マンガは逃げませんし、いつでも手にとることができます」として、「気が向いたときにでも手にとっていただければ幸いです」と結んでいる。
(林田力)