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空間を越えた救助要請

 命の危機に瀕した時、助かりたいと強く願い続けて叶う。それは偶然ではなく、強い思いが、認知を超えた力を発揮したのかも知れない。

 一等航海士ブリュースは、その日も船室で作業をしていた。顔を上げると前方に船長室があり、船長が机に向かっているのが見える。特に用があるわけではないが、声をかけたところ反応が無い。聞こえなかったのだろうと気にも留めず作業を終え、船室を出て改めて船長室を見た時、船長が顔を上げた。が、その顔は船長ではなかった。船上という限られた場にいるにも拘らず、全く見覚えの無い男だ。気味が悪くなり逃げるように甲板に出ると、船長がいたので男のことを尋ねた。しかし船長にも心当たりが無い。二人で船長室に行くと、そこには誰もいなかった。納得がいかないブリュースは、男が机に向かっていたことを思い出し、船長に机の確認を促した。すると、机の上のスレート板には「北西に進路を」と書かれていた。急遽、乗員全員の筆跡を調べたが、該当者はいない。

 この時、船長の心に去来したものは何だったのだろうか。船長は、北西に進路をとるよう命じた。しばらくすると、氷山が現れた。見ると、衝突し船体を激しく破損しながらも、やっとの状態で浮いている船があった。すぐに救助を開始し、全員をこちらの船に乗り移らせた。

 その中の一人に、ブリュースの目は釘付けになっていた。船長室にいた男だったからだ。船長に伝えると、男にスレート板を渡し、「北西に進路を」と書くように言った。書かれた筆跡は、一致した。男は、先のプレート板と二枚並べて見せられて混乱するばかり。ブリュースが船長室での件を話していると、難破船の船長が興味深い話を始めた。

 男が船長室で目撃されていた頃、当人は難破船で仮眠中だった。その時、見知らぬ船が自分達を救助するため、進路変更して向かってくる夢を見た。目覚めて船長に夢の内容を話し、ひょっとすると助かるかもしれないと、付け加えたと言う。男の強い願いが届いたのだろうか。

七海かりん(山口敏太郎事務所)

山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou/

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