search
とじる
トップ > スポーツ > 議論は尽きた!? タイブレーク制導入が高校野球を変える(2)

議論は尽きた!? タイブレーク制導入が高校野球を変える(2)

 日本高校野球連盟がかねてから議論を重ねてきた『タイブレーク制導入の是非』について、結論を出した。10月20日、技術・振興委員会が開かれ、来春、甲子園大会に直結しない道府県大会と地区大会で、テスト導入することになった。
 「現状維持を望む意見がそこそこありました。高校で野球を終える選手が多いのに、タイブレークで(高校最後の試合を)終わるのはどうかというような意見があった」
 技術・振興委員会の相沢孝行委員長の話からして、あらゆる角度からの議論が展開されたようだ。また、同制度に変わる別の対策があれば、柔軟に応じることも示唆していた。

 高校野球ファンの大多数が同制度導入に批判的だ。過去、『名勝負』と讃えられた試合のほとんどが延長戦である。今夏の甲子園大会を沸かせてくれた出場校の監督、部長も“慎重な発言”をしていたように記憶している。
 50代の私立高校指導者が、匿名を条件にこう語ってくれた。
 「軟式の大会で中京(東海・岐阜)と崇徳(西中国・広島)が延長50回を戦い、高野連からサスペンデッド(一時停止試合)の限界論が聞かれましたが、レアケースですよ。硬式、軟式も関係なく、延長戦だってそんなに試合数が多いわけではない」
 中京、崇得の死闘となった『全国高校軟式野球選手権大会 準決勝』だが、中京・松井大河投手は709球、崇徳・石岡樹輝弥投手は689球を投じている。4日間に及ぶ連投はレアケースとして、通常の延長戦を指してて、
 「正しい投球フォームを教えれば、大きな故障は招かないはず」
 とも話していた。指導者の努力次第で『ケガ防止』は可能だというわけだ。
 とはいえ、雨天順が続けば休養日が消滅し、投手に連投を強要してしまうかもしれない。高野連は大事が起きる前に対策を講じておきたかったのだろう。

 「世界的な流れならば、受け入れるしかないのかと…」
 タイブレーク制導入の是非を問う加盟校指導者のアンケート結果のなかに、そんな声があったことも伝えられた。
 タイブレーク制が日本の野球ファンの間で物議となったのは、2008年北京五輪ではないだろうか。野球・日本代表は一次リーグで延長11回に突入し、タイブレーク制による失点でアメリカ代表に敗れている。準備不足が敗因だが、高校野球にはタイブレーク制に適応しうる要素を持っている。

 そもそも、同制度は「点を取らせるシステム」でもある。北京五輪でタイブレーク制が導入されたのは、テレビ中継に対応するためだった。
 「野球はテレビ向きなスポーツであることを強調したい」
 当時、国際野球連盟(IBAF)会長を務めていたハービー・シラー氏はそう語っていた。
 野球は“時間の読めないスポーツ”とも言える。投手戦になれば、ロースコアのまま延長戦に入り、乱打戦ではイニング中に投手交代がされ、試合が中断する。そんな球技の特徴が世界中のテレビ局から“敬遠”され、莫大な放映料を得てきた国際オリッピック委員会(IOC)にすれば、「野球=五輪種目から除外」となったのだ。タイブレーク制を採用した理由は『試合時間の短縮』に尽きる。

 これに対して、高野連がタイブレーク制の導入を検討した理由は『選手の健康管理・維持』。では何故、高校野球が適応し得るかというと、強豪と称される有名高校を取材すると、
 「ウチは守備のチーム」
 と話す監督、コーチが多い。チーム打率が3割近い学校もそう答えている。
 高校野球はトーナメント形式なので、1つでも負ければ、それでジ・エンドだ。したがって、得点を挙げることよりも『無駄な失点』を与えない守備練習に重点を置く。得点圏に走者を置いた場面を想定しての守備態勢や、外・内野の中継プレーの正確さ、機敏さを高めようとする。『守備の精密さ』で勝敗が決まるとしても、実戦形式の練習で鍛えられてきた高校球児たちは慌てないはずだ。

 地方大会の取材で、熱中症や日射病で「足がつる」「立ちくらみ」を訴え、選手交代するシーンを何度か見せられてきた。テスト導入する意義はあると思うが…。
 もっとも、金属バットを使用する高校野球が人工的に走者を置いた場面から攻撃を始めれば、大量得点となり、そこに至るまでのロースコアの緊迫感を一気にシラケさせてしまう“危険性”は否定できない。

 蛇足になるが、シラー氏にタイブレーク制を進言したのは、日本人のIBAF副会長だとされている。社会人野球・都市対抗などの実例が伝えられ、シラー氏が興味を示したそうだ。

 高野連の現要人たちは元プロ野球選手の指導者復帰に関するルールも改定している。高野連は、旧態依然とした“お固い組織”と言われていた時代もあったが、今は発想も柔軟で、改定に関しても迅速である。IBAFは『試合時間の短縮』目的(=利益優先)だったからか、タイブレーク制を成功させられなかった。)『日程問題』と、さらなる『ケガ防止・健康管理』のために動き始めた高野連は野球ファンの共感を得られるだろうか。(了/スポーツライター・美山和也)

関連記事


スポーツ→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

スポーツ→

もっと見る→

注目タグ