多数の著書がある野村監督には、はるかに及ばないものの、山崎にも著書がある。
タイトルは「野村監督に教わったこと」(講談社)。まさに、野村賛歌の一冊で巻頭には師から特別寄稿と題された一文がある。その中に、<山崎は年齢的にも、実力的にも、「親分」「大将」という雰囲気があります。…わがチームの選手で言えば、上に立てる唯一の存在でしょう>と書かれている。
山崎も楽天のチームリーダーであることを自認する一方、岩隈投手や礒辺外野手にリーダーの後継者になれと叱咤。その上で、<「俺がいなくても十分、勝てるよ。イーグルスはもう、おまえらに任せるぞ」と言って引退できる状況が望ましいとも思っています>と告白。今年11月で40歳。すでにバットを置く覚悟はできているだけではなく、“山崎後”のチームを把握していると見ていい。
球界の裏事情、特にパ・リーグのそれに詳しいスポーツ紙のベテラン記者はこう言う。
「オリックスをクビになった時に、(引退の)覚悟はできていた。だから、はっきり物が言える。野村監督に心酔して、もうひと働きする気になり、今や球界の人気者。ここらあたりが身を引く潮時と考えていてもおかしくはない」
お荷物球団と言われた楽天ゴールデンイーグルスを、野村監督が就任する前から引っ張ってきた功労者。球団サイドも、その功績は認めている。
少し気は早いが、このまま行けばシーズン優勝はともかく、プレーオフ進出が現実味を帯びてきている。
ひょっとすると、「野村監督に教わったこと」でたびたび書いている夢、監督の胴上げもありうるのだ。
野村監督73歳の誕生日だった6月29日のソフトバンク戦では、大量15点の口火を切る2打席連続本塁打。師にまたとないプレゼントを贈った。
「狙っていたんでしょうけど、あの大事な日に大仕事をやってのけて本人もびっくりしていた。よく電話で話している(監督の)沙知代夫人から『頼むわよ』と、はっぱをかけられていたらしく、試合後はにこにこでした」(スポーツ紙楽天担当記者)
ここ一番で派手な活躍ができるあたりに山崎の運を感じさせるが、果たして“後継監督レース”でもその運は背中を押してくれるのか。監督業は、セ・パにひとりずつ外国人監督がいるように人材不足。天国と地獄を見た山崎なら十分、資格があるのだが…。
「楽天の球団サイドも迷っているのは確か。シーズン中だけに箝口令が敷かれていて当然ですが、すべては野村監督しだい。選手を含めても最も人気があるだけに、『まだ(監督を)やる』と言えばそうなる。『次は山崎だ』と指名すれば、これも二つ返事で認めるでしょう」(前出・ベテラン記者)
楽天の親会社は、ネットの優良企業。横浜ベイスターズの親会社、TBSの大株主であるだけに、来季は野村監督の横浜監督説も出ている。
「それは、十中八九、ない。楽天を勇退すれば、球団が新たにポストを用意する可能性もある」(同)
そうなれば、山崎への禅譲がますます真実味を帯びてくる。兼任監督が球団の腹づもり。山崎の著書には“組閣”を意識した人物が登場している。もうひとりの恩人と言ってはばからない、田尾安志前監督と中日で一緒にプレーしていた関川浩一打撃補佐コーチだ。
「山崎楽天が誕生すれば、田尾ヘッドコーチ、関川打撃コーチでしょう。それに、中日在籍時に親交があって、引退しているか、今季で引退する選手。もう、その日を考えて組閣の準備をしていておかしくない」(前出・ベテラン記者)
楽しみなシーズンオフになりそうだ。