この健康器具がどのような経緯で誕生したのかを探ってみると、ちょっとおもしろい。
まずは女性の病気治療のために開発され、やがて性具になってきたという歴史があるのだ。
これら健康バイブレーターの歴史をひもとくには、18〜19世紀の欧米まで時代をさかのぼらなくてはならない。
18〜19世紀の欧米では、女性が見知らぬ男性に話しかけるだけで「ふしだら・淫売」というレッテルが貼られてしまうほど、性というものが抑圧されていた時代であった。
まして女性が性を楽しむなどということは、それだけで罪であるとされた。これは夫婦での性生活の場合も同じである。
厳格なキリスト教会では、夫婦間の性行為でも、夫は妻の体にシーツをかぶせ、そのシーツは性器のところだけ穴を空けて、肌と肌が触れあわないように性行為を行なうことがすすめられていたくらいで、性行為は子孫を作るためだけにあり、女性が性交中に“悶えたり”“あえぎ声”を出したりするのは“いけないこと”であったのだ。
そして18〜19世紀の欧米では、女性への過剰な性的抑圧からか、女性特有とされていた「ヒステリー」が流行っていた。
当時、女性が情緒不安定になったり、卒倒したり、不眠になったりと、いまでいう神経症のような状態になるとヒステリーと判断されていたのである(ヒステリーという病名は現代では使われていない)。
さて、19世紀ころになると、ヒステリーという病気になった女性は“婦人科”で治療を受けることになる。
どのような治療を受けていたかというと「医師による性器マッサージ」である。
つまり指技によってオーガズムに達すると、女性のヒステリー症状が治まるのである。
夫の性行為で“悶えたり”“あえぎ声”をあげることができなかった女性も、医師による「治療」では、どんなに悶えようと大声で叫ぼうとも、非とはされなかった。だってそれは「治療」であるのだから、それは「仕方のない」ことなのである。
そしてその治療を受けた女性の多くは、ヒステリー症状が治ったという。
しかしこの治療。医師の技術や体力を結構使うものでもあった。
そこで考え出されたものが「バイブレーター」である。
当初は、水力やスチーム、ゼンマイ仕掛けものもあったようだ。
19世紀の後半になると、電力を使ったバイブレーターが開発される。名目はもちろん、肩こりや腰の疲れに使用するためのものとされていたが、目的は女性のヒステリー治療のためであり、20世紀のはじめには各家庭に広まったのである。
その後、バイブレーターは治療用ではなく性具として広まり、ホームセンターなどでも安価に手に入れることができる。
もちろん、購入者の名目は「肩こり腰痛など対策として」であろうが、その真意は購入した本人にしかわからない。
ちなみに世界的コンドームメーカーである「デュレックス社」の調査によると女性の4人に1人の割合で電動バイブを使用したことがあるそうな。
(巨椋修(おぐらおさむ) 山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou/