立ち合いの時点で完敗だった前日の玉鷲(東小結)戦から一夜、この日は立ち合いで当たり負けしなかった稀勢の里。左を差しつつ右上手を掴み栃ノ心を捕獲すると、相手の下手投げを凌ぎつつ徐々に土俵際へ。執念の寄りで、そのまま栃ノ心を土俵の外へ寄り切った。
この日NHK大相撲中継の解説を務めた北の富士勝昭氏は、「今場所初めて自分の相撲取ったね」とこの取組を高評価。加えて、ネット上にも「今場所最高の一番だった」、「横綱の意地が感じられた」、「明日もこのまま行ってほしい」といったコメントが寄せられている。多くの人が、今日の一番を“会心の相撲”と感じたようだ。
先述した玉鷲戦で黒星を喫し、6勝2敗で前半戦を終えていた稀勢の里。苦戦続きの内容に後半戦を不安視する声も少なくなかっただけに、今日の相撲内容は残る6日間に向け大きな手ごたえをもたらしたことだろう。
勝ち越しにリーチをかけた稀勢の里は、本日10日目に遠藤(西前頭3枚目)と対戦する。相手はここまで1勝8敗と苦しんでいるだけに、立ち合いさえ間違わなければ勝機は十分。2横綱1大関2関脇との対戦(注・同部屋の高安とは当たらない)が予想される最後の5日間を迎える前に、勝ち越しを決めてしまいたいところだ。
また、仮に今日勝ち越しを決めると、自身の進退問題も進展を見せるかもしれない。既にご存知の方も多いだろうが、5連勝を飾った5日目の時点で、横綱審議委員会(横審)は稀勢の里を高く評価している。このことを考えると、勝ち越しを受けた横審が現役続行へ“合格点”を出す可能性も少なくない。
稀勢の里が本場所で勝ち越したのは、賜杯と怪我を同時に手にした昨年3月場所が最後。この場所から始まった苦難の道のりに、一応の“ピリオド”を打つことはできるだろうか。
文 / 柴田雅人