プロ野球各球団はドラフト1位指名の最終調整を始めた。最速163キロを誇る令和の怪物・佐々木朗希(大船渡=3年)か、それとも、甲子園の雄・奥川恭伸(星稜=3年)か…。大学ナンバー1、即戦力右腕の森下暢仁(明治大=4年)もいる。1位指名の入札が重複しそうな彼らを避け、レギュラー候補を確実に指名する方法もある。
「重複も覚悟で、それでも佐々木がほしいとする球団も少なくありません。近く、佐々木はプロ志望の進路表明の会見を開く予定。その後、12球団で申し合わせ、佐々木サイドに面談を申し込むつもりです」(在京球団スタッフ)
2017年の清宮幸太郎など、12球団が指名前の面談を申し込むのは初めてではない。
その面談の目的だが、表向きは育成ビジョンなどを伝え、球団が自己ピーアールする場となっているが、それだけではない。「選手の性格」を把握し、球団側の最終判断の材料を得るためでもあるのだ。
元スカウトの一人がこう言う。
「選手と直接話をすれば、性格も分かるからね。各球団には表に出ていないカラーがあるんです。先輩後輩の関係が厳しいチームもあれば、レギュラー選手が職人気質で、控室では会話もないところだってある。その反対に、和気あいあいとやっているチームもあります。面談をし、『この子は素晴らしい素質を持っているけど、ウチには合わないな』と分かれば、指名から下ります」
清宮との面談を行ったものの、実際には1位入札しなかったチームもあった。
ドラフトのルールでは、スカウトは選手と直接話をしてはいけないことになっている。「もっと話をさせてくれ」というのが現場の声で、今のプロ野球界には「合わない」と分かれば、指名から下りる潔さもあるようだ。かつては、お目当ての選手を抱え込むため、ウラ金が飛び交っていたなんて話もあったが、これも、時代の変化だろう。
時代の変化と言えば、こんな話も聞かれた。
「早熟な選手だと有り難いんだけど…」(前出・同)
ひと昔前まで、無名の高校生選手を指名して、二軍でじっくり育てる球団作りがファンの支持を集めていた。広島がその代表例だろう。しかし、今は「時間」がないのだ。
「高校生を指名したら、最初の2、3年は体力作り、5年くらいまでは二軍で経験を積ませ、20代半ばから後半で一軍戦力になってくれたらというビジョンでした。5年くらいは待つことができたんですが、今はフリーエージェント権(以下=FA)があるからね」(前出・同)
一軍戦力になるまでさほどの時間を要さないと評価された上位指名選手に対しても、同じようなことが聞かれた。ひと昔前は、「20代半ばから後半でレギュラーに」という計画だった。しかし、その年齢まで待っていたら、FA権の行使で他球団に行かれてしまう。したがって、今日では、入団から4、5年目にピークを迎えるような選手を理想としている。早熟とは、そういう意味だという。
注目の佐々木について、こんな声も聞かれた。
「U‐18大会を見て、他の代表選手よりも体ができていないとの印象を持った球団も少なくありません。プロの練習メニューをやらせたら、故障してしまうかもしれない。佐々木の才能を開花させるまで、他の高校生投手よりも時間が掛かると思います」(前出・在京球団スタッフ)
ようやく才能が開花したと思ったら、メジャーリーグ挑戦なんてことにならないか? 選手の性格を熟知するための時間、ピークに持っていくまでの時間。球団の時間に対する解釈も変わってきた。もっとも、「佐々木か、奥川か」で決めかねているうちに、時間ばかりが過ぎているようだが…。(スポーツライター・飯山満)