「試合中、いつテレビカメラに映されているのか分からないしね」
試合の一部始終を全国ネットで生中継されているわけであり、グラウンドに立つ球児の側にすれば、「怒られる」よりはずっといい。監督もそう思っている。叱って萎縮されるより、球児たちの本領を発揮できる状況を作ってやりたい。しかし、監督も人間だ。いつもの練習試合のように、ゲーム中に「コラッ!」と怒鳴ってしまうかもしれない。それをテレビカメラに抜かれたとき、どうなるか…。
「監督によっては普通の顔をしていたのに、テレビ視聴者から『怒っている』と苦情があったそうです。勝つことだけが教育ではないし、甲子園に行ったら、ノビノビとやらしてやりたい」(某監督)
そのための『笑う練習』というわけだ。
テレビカメラは“残酷”である。失策で窮地が拡大したとき、必ずと言っていいほど守備側チームのベンチを映す。好機をミスで逸した攻撃側のベンチも瞬時に抜く。別の有名監督が言う。
「下半身は映らない。だから爪先で椅子を蹴っていたら、足の親指の爪が割れた。ストッキングが赤く染まっていたんで、自分でもビックリしたよ(笑)」
島根県代表校・開星の野々村直道監督(58)が敗戦後、21世紀枠出場校を見下す暴言を吐き、問題視された。『暴言』は決して許されるものではないが、スポーツの指導現場では活字にできないような叱責の言葉が飛び交う。一般論として、指導者たちは『厳しく言う場面』と『おだてる場面』を使い分けている。名将の1人、阪口慶三監督(64)は大垣日大に移ってからは『熱血漢』『鬼』と称された指導法を改めた。今では冗談も言い、球児たちを笑わせている。阪口監督の率いる同校は昨秋の神宮大会で征し、今センバツでは優勝候補の一角と目されている。
「阪口監督は怒るところではきちんと怒るし、球児たちをリラックスさせるべき場面ではそうしています。その絶妙な人心掌握術はさすがです」(関係者)
だが、大多数の高校監督は、まだその域に達していない。そのストレスが顔に出てしまうから、テレビカメラのアップに怯えているのだろう。
「試合中、ちょっとイライラさせられたことがあってね。宿舎に帰ったら、学校長から電話がありましたよ。『もっと穏やかな表情でやれないか?』って。勝つことが全てではない。でも、最初から負けるつもりで臨む試合なんてないんだし…」(中堅監督)
阪口監督を始め、甲子園歴代1位の59勝目を挙げた高嶋仁監督(智弁和歌山)、前田三男監督(帝京)など、有名指導者も試合中に厳しい表情を浮かべることはある。しかし、ベテランの監督の喜怒哀楽はそれだけで『絵』になる。名将には名将の悩みはあるはずだが、「カメラのアップが怖い」と怯える監督はかなり多いそうだ。(スポーツライター・飯山満)