それは昨年10月のことだった。ふだんは寡黙な稲葉師がわれわれ記者のもとへ上機嫌で歩み寄ってきた。
「今週、すごい馬がデビューする。今年の“マイネル”の一番馬だ。覚えておいた方がいいぞ」
その馬こそ、皐月賞に不動の主役として臨むマイネルチャールズだ。
そのデビュー戦は4着に敗れたものの、チャールズは師の期待に応え、その後、4戦3勝、2着1回の快進撃でいまや関東のエースへと成長。前哨戦・弥生賞では正攻法の競馬で他馬をねじ伏せ、皐月賞候補の最右翼に躍り出た。
師は「勝つには勝ったが、勝負どころで多少掛かっていたように、まだまだ課題がある」と厳しいジャッジを下したが、それも将来を嘱望するからこそだ。
中間はビッグレッドファーム鉾田へ放牧に出され、8日に帰厩した。1週前の10日には主戦の松岡騎手を背にPコースで追われ、5F68秒6、上がり3F38秒4→11秒9をマーク。終い重点ながら鞍上のGOサインに鋭く反応し、併走馬をあっという間に1秒突き放した。
「ズッ、ズッ、ズッて(伸びてくるときの)ストライドがすごいだろう。放牧先でも坂路でやってきたから状態がいいんだ」とトレーナー。ここまで青写真通りに調整が進んでいることもあり、「どんな競馬でもできるし、後ろから抜かれたことがないほど勝負根性もある。いい状態で臨めれさえすれば」と自信をさらに深めていた。
一方、騎乗した松岡騎手も「前回より動き、追ってからの反応が良くなった。精神的にも落ち着きがあり、乗った感じは今までで一番。ケイコに乗るまでは不安と期待で半々だったけど、今はもう期待だけです」と好感触を得ている。
「1番人気になるだろうけど、プレッシャーは感じないし、それにふさわしい馬だと思う。失うものはないし、自分の馬が一番だと思って乗ります」
まずは1冠。美浦の若武者は愛馬に全幅の信頼を寄せ、皐月の大舞台に挑む。