いよいよ今回から新進俳優(と勝手に思っていますが、前回綴った初舞台を鑑賞した皆様は“新進”ならぬ“不審俳優”と思った事でしょう)西田隆維が独自の視点で「観た・思った」映画評をスタートさせます。
この映画評は、映画の登場人物一人に注目し、僕が感じた「ポイント」を中心に綴りたいと考えております。
とはいえ、こんな僕ですから、途中から「話が脱線」「テーマが脱線」は日常茶飯事。かなり、ハチャメチャな展開になるかと思われますが、お暇な人はお付き合い下さい。
記念すべき第1回目は『男はつらいよ』から「松坂慶子」さんをピックアップします(ちなみに僕は大の寅さんファンなのです)。松坂さんと言えば、「1981年に公開された27作目」での好演が印象深いですね。
『男はつらいよ』に欠かせないマドンナとして、瀬戸内海の島から大阪へ出てきた芸者・浜田ふみを演じた松坂さん(46作目にも登場)。関西弁や関西料理の「薄味」に性が合わなかった寅さんですが、マドンナに一目惚れし、むしろ、逆に関西弁、関西の薄味に染まっていってしまう…というストーリーでした。
寅さんと言えば、《好きな人に染まっていく純粋さ》《ヒロインに惹かれたらどんな苦手な事でも「朱に交われば赤くなる」器用さ》《ただ、それが度を越してしまい「染まりすぎる」不器用さ》が魅力。見ている側にすれば、随所に寅さんの人間臭さが感じられた映画で、彼に幾度となく心打たれた事でしょう。
そんな、寅さん映画ですが、今回取り上げた27作目は何故か、浜田ふみ(松坂慶子さん)の「独特な声質で関西弁を話している姿」「間の取り方」「甘えながらもたれかかる仕草」が、特筆モノ。松坂さんは色気120%で寅さんシリーズでは異質の仕上がりになっています。
いつもながら、ここでも浜田ふみに寅さんが一途になってしまうのです。が、今回は無理もありません。男なら誰しも惚れちゃうタイプですから。
印象深いシーンは、寅さんが3人の芸者仲間を引き連れランチに行った場面です。食事後の会計時、「江戸っ子ぶり」を披露する寅さんはふみへ財布を渡し、「これで会計を!」なんて、思わずカッコつけちゃう…。ところが、そこは寅さん、カッコイイままで、終わるはずがありません。案の定、寅さんの財布にはランチ代金の4300円なんて入っていません。そんな見栄っ張りの寅さんをふみはしっかり見抜いているのです。(ふみは)寅さんの財布を開けたその「一瞬」で中身が入っていないのをキャッチ。何と身銭を切るのです。しかも寅さんに笑顔で応える余裕…。見事、男をたてるのです。
最高の女性じゃないですか!
「奢ってもらうなんて当たり前」的なオンナが昨今、どれだけ氾濫している事か−−そして…いやいや言い過ぎてしまうのでこの辺でおさえます。尚、「金が無い」という点で寅さんと共有している小生は、このシュチエーションでしたら、ふみから逆に1000円もらっています(汗)。
それはさておき、ふみにすっかり一目惚れした寅さんは一週間以上、大阪の定宿を“占拠”−−とは少しオーバーですが、いつものように宿賃を納めていないのですから、そう表現してもおかしく無いでしょう。勿論、そのような事は今も昔も寅さんも許されません。宿賃を宿の跡取り・喜介(裸の大将でお馴染みの芦屋雁之介さん)が取り立てにいくのですが、これが「山下清(裸の大将)」同様、人間味がある御仁で、寅さんの前では形無し。話にならないのです。
この時のやりとりを簡単に紹介しましょう−−。
喜介「早いもんでんな〜。寅さん来て1週間」
これに対して、百戦錬磨の寅さんは、いつもの調子でぶっきらぼうに…。
寅さん「おれは1か月位、経ったと思った。月日が流れるのは遅いんだな〜」
不遜な寅さんは初日の宿賃しか支払いを済ませていないのにこの発言をしたのです。さすがに、喜介はプルプルと小刻みに震え、怒りを噛み殺した動きを見せていましたが、前述の通り、喜介は優しすぎて話にならないのです。僕には雁之介さんの表情は「おにぎりをほおばっている裸の大将」にしか見えませんでしたが…。
※本文とは全く関係ありませんが、「時の経つ早さ」で思い当たるエピソードがあるので書かして下さい。
僕が現役時代(JALグランドサービス)にバカな二人の後輩がこんなやり取りをしていました。
難波祐樹「何か最近、時間の経つのがメッチャ早いんですよ」
それをそばで聞いていた河南耕二が難波に大反論。河南流「時のスピード」(当然、自説ですよ)をこう説いていました。
河南耕二「それはな、お前が充実しとらんからや。楽しい時は長〜く続き、嫌な時間はあっという間に終わるもんや。よく言うやろ、楽しい時間は永遠に続き、苦しい時間はすぐ終わる、って」
皆さん、果たしてそうでしょうか−−僕は楽しい時間はあっという間に過ぎ、嫌な時間はものすごく長く感じてしますのですが…。まあ、河南は特別な神経を持っている男ですし、発想は自由ですから…。
閑話旧題−−結果、大阪滞在中はふみと何度かデートをした寅さんですが、寅さんの想いは実らず、ふみは寿司職人(斉藤洋介さん)とゴールインしてしまうのです。好きな女性の前では、悲しい位、人間味が出てしまう寅さんの結末がここでも窺えました。
寿司職人との結婚を報告しに柴又を訪れたふみ。彼女は「是非、寅さんに報告したい」と満面の笑みを見せるのですが、寅さんと「彼の事情」を分かっている寅さんファミリーは複雑な面持ちです。
その後、寅さん一家がいつものように、彼を次の様に叱咤激励するのです。
ヒロシ(前田吟さん)「大切な事は人生を力強く生きる事なんですよ…兄さんにはそれが無い」
寅さんは目線を下げ、視線を落としながら、投げやりに…。
寅さん「無い、無い」
何を、何を。僕に言わせれば、寅さん程、力強い人はいませんよ。ただ、「強い気持ち」はあるのですが、それを恋愛に活かす事が下手。「一手」が出ないだけ、なのだと思います。もっとも、ヒロシが云う「力強く生きる」は寅さんに対する「生活力の無さ」を不安視したものだと思われますが…。
僕は「寅さんシリーズ」が大好きで、全作品、観賞したのは当然の事で、繰り返し何回、モノによっては何十回も観ています。
今回、取り上げた作品もそうですが、中身が濃く、まだまだ、この作品の奥を感じ取れていないのが現状です。「奥の深さ」を感じる「名セリフ」の真意を汲み取れるよう僕も精進しなくてはいけない、と思っています。
これにしても「寅さん」は観れば観る程、味が出る−−スルメの様な作品ですね。そんな「スルメ」に癒されるオトコ・西田でした。
<プロフィール>
西田隆維【にしだ たかゆき】 1977年4月26日生 180センチ 60.5キロ
陸上超距離選手として駒澤大→ エスビー食品→JALグランドサービスで活躍。駒大時代は4年連続「箱根駅伝」に出場、4年時の00年には9区で区間新を樹立。駒大初優勝に大きく貢献する。01年、別府大分毎日マラソンで優勝、同年開催された『エドモントン世界陸上』日本代表に選出される(結果は9位)。
09年2月、現役を引退、俳優に転向する。10年5月、舞台『夢二』(もじろう役)でデビュー。ランニングチーム『Air Run Tokyo』のコーチも務めている。