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「おぐらが斬る!」戦場での殺人は平気なのか いまも兵士は心を傷つけながら戦っている

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いまも戦争が行われている。戦争には人を殺すという行為が伴う。元米陸軍士官学校教授のデーヴ・グロスマンの著作『戦争における「人殺し」の心理学』(ちくま学芸文庫)によると、第二次世界大戦のとき、米兵士は「敵との遭遇戦に際して、火線に並ぶ兵士100人のうち、平均してわずか15人から20人しか「自分の武器を使っていなかった」のである」と、書かれている。

この本によると「人は自分が殺される以上に自分が人を殺すことを恐れる」というのだ。

著者によると、人間は本来、人殺しを拒む本能があるという。しかし兵士が戦場において、人殺しを嫌い、戦闘中15~20%の兵士しか発砲しなかったとなると大問題である。

これに驚いた米軍は、標的を丸型から人型にしたり、考えずに撃てるようにするなど射撃訓練をよりリアルにして、人を撃てる兵士を育てることにした。すると第二次大戦のときは15~20%だった発砲率が、朝鮮戦争では50~55%になり、ベトナム戦争では95%に上がったのだ。

こうして人殺しに抵抗がなくなった兵士たちが、母国に帰還し、抵抗なく人を殺す殺人犯になるかといえば、そうではないらしい。イラクやアフガンの帰還兵は、戦争に参加しなかった同世代の若者に比べて、むしろ殺人率が低いそうだ。

それは戦争というルールのもと、国家や上官の命令でやっているということであって、一般社会の殺人とは根本的に違うという。

それでも戦争という異常な状況によって、精神を病んでしまう兵士もいる。第二次大戦中の日本では、その病気のことを「戦争神経症」と呼んでいたが、「皇軍にはそんな臆病な兵士はいない」とされ、長く表に出てくることはなかった。

欧米においては第一次世界大戦あたりから、兵士の戦闘における精神疾患は研究されてきたが、本格的にはベトナム戦争の帰還兵が、深刻な心理的障害を起こすことから、研究されるようになった。

ここからPTSD (心的外傷後ストレス障害・post traumatic stress disorder)といった心の傷の研究が進んでいく。

戦争における心の傷は、うつ病や不眠、幻聴などの幻覚、激しいけいれんや震え、アルコール依存などが症状としてでる。

さて最初に第二次大戦のとき、戦場での発砲率は15~20%だと書いた。そして様々な訓練を経てベトナム戦争では95%の兵士が敵に向かって引き金を引けるようになった。

その結果、ベトナム帰還兵に殺人経験者が著しく増えることになった。同時にPTSDなど心に傷を負う帰還兵が増えた。たとえ戦場とはいえ殺人行為をすると、人の心はひどく傷つくのだ。

いまもウクライナなど世界のどこかで戦争や紛争で戦っている人たちがいる。その人たちも肉体だけではなく心も傷つけあいながら戦っていると思うと、1日も早く平和な日常が戻ってほしいと願うばかりだ。

プロフィール

巨椋修(おぐらおさむ)
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、42歳で映画監督。社会問題、歴史、宗教、政治、経済についての執筆が多い。
2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。陽明門護身拳法5段。

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