『蒲田行進曲』などで知られる、劇作家のつかこうへい(1948~2010)は数多くの劇台本のほかに多くの小説を残している。つかの小説のなかでカルト的な人気を誇っているのが1986(昭和61)年に発表された『長島茂雄殺人事件 ジンギスカンの謎』(角川書店)である。タイトル通り野球選手の長嶋茂雄(劇中では「長島」となっている)の命が狙われるストーリーなのだが、実はこの小説は平成に入り映画化する案があった。
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しかも、長島は本家本元・長嶋茂雄本人が演じることになっていたというのだ。
残された資料によると、『長島茂雄殺人事件』は配給が『男はつらいよ』シリーズでおなじみの松竹、監督は長年の巨人ファンで『犬神家の一族』などの作品で知られる巨匠・市川崑。そして主人公となる刑事を長塚京三が演じることになっていた。
公開は1995(平成7)年10月に決定し脚本も完成。撮影も行われていたが、同年6月に突如、制作と上映が中止された。
中止に至った理由は「1995年」という時代にある。当時、国内ではオウム真理教が起こした無差別テロ事件・地下鉄サリン事件の影響が収まっていない頃であり、『長島茂雄殺人事件』の「犯人と警察の攻防戦」というストーリーに対し疑問の声があり上映中止となったのだ。
当の長嶋は『長島茂雄殺人事件』の映画化を非常に楽しみにしており、本人役として出演することも決定していた。それだけに本作は「幻の超大作映画」としてマニアの間で話題にあがることがある。