敗戦投手にはなったが、そのスリリングな攻防は多くの米スポーツメディアが称賛していた。興味深いのは、ダルビッシュが同日に投じた球数だ。7イニングで僅か98球、被安打1。奪三振数9であり、先発投手としての役目は十分すぎるほど果たしている。ダルビッシュだからできた「超・省エネ投球」である。
「彼は『11種類の変化球』を操るピッチャーと認識されています。カーショーは重量感のあるスピードボールが武器です。一時期、その球速に衰えが見え始めたんですが、トレーニング方法を変え、また球速で勝負できるようになりました。カーショーとは対照的なピッチングスタイルだったので、パドレス以外のチームを応援しているファンも見入ってしまいました」(米国人ライター)
両投手とも、パーソナルキャッチャーがいる。ダルビッシュはパドレスへのトレードが通告された際、「ヴィクター・カラティーニも!」とリクエストしたこともあり、彼の存在は有名になっている。その専属捕手と、同試合で“意味シンなサインの交換”もしていた。
3回のマウンドだった。カラティーニの出すサインに1、2度、首を振る。その後、ダルビッシュは帽子、脇腹、胸などを触るシグナルをカラティーニに送り返したのだ。投手から捕手に球種を伝える“逆サイン”というヤツだ。
前出の米国人ライターによれば、「ダルビッシュからサインを出すのは初めて?」とTV中継のアナウンサーが伝え、解説者が「変化球が11種類もあるんだから、大変だろう」とユーモアで返していたそうだ。
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このシーンについて、日本ハム時代からダルビッシュを知るプロ野球解説者に聞いてみた。
「彼が日本ハムに在籍していた当時、鶴岡慎也捕手(現・バッテリーコーチ兼任)とバッテリー組むことが多かったです。大野奨太(現中日)もいたんですが。大野は『オレに付いてこい』というリードでした」
それに対し、鶴岡は「次はこの球種が投げたいんだろ?」と投手の考えていることを先読みし、投手をノセていくタイプだった。
しかし、今回の逆サインは「他に投げたい球種があった」という単純な話ではなかったようだ。
「ダルビッシュは対戦打者全てに対し、ウイニング・ショットの球種を変えていました。試合前の打ち合わせとは異なる打者の対応があったらしく、逆サインを送ることで、カラティーニに『次の打者から配球を変えよう』と伝えたかったのだと思います」(前出・米国人ライター)
3回の逆サイン以降、ダルビッシュはカラティーニに指示を出していない。「一緒に考えていくバッテリー」でもあるようだ。華麗な投手戦はこの2人の野球頭脳と共同作業によって生まれたものでもある。
「米国では、捕手は日本のように重要視されません。内野ポジションの一つみたいな捉え方です」(前出・同)
ダルビッシュの「魅せるピッチング」によって、米国の捕手論も変わっていくのではないだろうか。(スポーツライター・飯山満)