東北楽天ゴールデンイーグルスが石井一久ゼネラルマネージャー(GM)の新監督就任を発表した(11月12日)。地元宮城県仙台市のファンを始め、他球団関係者、メディアに驚きはなかった。三木谷浩史オーナーが石井GMに寄せる信頼の大きさ、編成権と現場指揮権を兼務した監督の前例もあったからだが、加えて発表された新コーチ人事に伊藤智仁一軍投手チーフコーチの名前が消えていた。
>>元ヤクルト・宮本氏、エスコバーの不振原因をズバリ指摘「僕もすごく戸惑った」自身も経験した苦労とは<<
ここに来季の高津ヤクルトとの関係、これから始まるオフの補強案が隠されていた。何よりも、東京ヤクルトの投手陣の再建は並大抵ではない。
「伊藤コーチの東京ヤクルト帰還は間違いないでしょう。もともとはヤクルトのコーチですが、3年も離れていたので初めて顔を見る若手投手もいます。まずは彼らの性格面を把握し、そこからがスタートです」(プロ野球解説者)
ヤクルト投手陣だが、今季は12球団ワーストの589失点、防御率4・61に終わった。斎藤隆投手コーチがその責任を取って退任するが、同コーチの招聘は高津臣吾監督のたってのお願いでもあった。
「シーズン後半、斎藤コーチはブルペン担当に配置換えさせられています。この時点で、『今季限り』のウワサは出ていました」(スポーツ紙記者)
そもそも、斎藤コーチを呼んだ理由は「投手陣の再建」。19年シーズンもチーム防御率は12球団ワーストの4・78と低迷し、高津監督が着目したのは「故障者の多さ」だった。
「斎藤コーチは自身も右肘の怪我に悩まされた時期もあり、コンディション作りやリハビリに関する知識も豊富でした。メジャーリーグも経験し、そこで日本とは異なるトレーニング方法も学び、それをヤクルト投手陣に注入してもらいたい、と」(前出・同)
伊藤コーチの帰還だが、その理由も同じなのだ。コンディション作り、試合中のブルペン練習を含めた体調管理…。斎藤コーチは指導者経験がなかった。伊藤コーチはヤクルト、独立リーグ、そして、楽天など他球団の投手も見てきた。投手陣の再建は急務である以上、経験豊富な伊藤コーチに替えたとも解釈できるが、こんな声も聞かれた。
「2010年、小川淳司ヘッドコーチ(現GM)が監督代行を務めた時、次期監督候補として伊藤コーチの名前も挙がっていました。当時は小川代行の昇格か、荒木大輔コーチ(現北海道日本ハム二軍監督兼投手コーチ)二択のような雰囲気でしたが、ブルペン管理、投手の継投策に関する的確な助言を続けていた伊藤コーチを推す声もあったんです」(球界関係者)
近年、ヤクルトは生え抜きのOBから監督を選んでいるが、その前に「二軍指揮官」も経験させている。前任の真中満氏、高津監督がそうであり、次は池山隆寛・現二軍監督とも解釈できる。
「伊藤コーチの帰還は池山政権の次を意味しているとも捉えられますし、緊急事態が起きた時に備えたとも受け止められます」(前出・同)
池山二軍監督は石井GM下の楽天で二軍を指導していた。ここに伊藤コーチの古巣帰還も重なり、ヤクルトは石井全権監督が最も話をしやすいチームともなった。
また、石井新監督はトレード奨励論者でもある。ヤクルトも投手の補強は大歓迎だろう。楽天、そして、パ・リーグの投手事情も知る伊藤コーチの帰還は、ヤクルトの補強ルートの拡充にもつながった。(スポーツライター・飯山満)