五島氏の代表作と言えば、「1999年7月に人類が滅亡する」の文言でおなじみ『ノストラダムスの大予言』(祥伝社、1973年)だろう。世に出るや、250万部を超えるベストセラーとなり、1970年代には社会現象にもなった。中には、「1999年に世界が終わってしまうなら」と自暴自棄な行動に出た人もいたようだ。この点について、五島氏は後にテレビや雑誌のインタビューにて、「本当に読んで欲しいのは最終章の『残された望み』の部分だった。備えができていれば大丈夫だと警告したが、センセーショナルな取り上げ方をされてしまった」と当時のブームを振り返っている。
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さて、1999年を迎えた後は、注目も幾分か薄れた『ノストラダムスの大予言』だが、1999年以降も予言詩は続いているため、稀に「この詩は◯年◯月頃に○○が起きることを予言している」等のネタが出て再注目されることがある。
だが、新型コロナウイルス感染症が流行した今年、別の視点からノストラダムスが注目を集めてもいた。ノストラダムスはルネサンス期の占星術師であったが、同時に医師でもあった。彼の医療活動で有名なものに、当時欧州で猛威を奮った黒死病(ペスト)の予防法を編み出した、というものがある。ネズミがペストを媒介することに気づいたり、当時は一般的でなかったアルコールや熱湯による消毒を行って被害を抑えようとした、というものだ。もし事実であれば、先見の明どころか、現代の医療行為を予知していたかのような内容だ。
だが、改めて当時の記録に当たってみると、後世の創作である可能性が高いと考えられている。実際にペスト治療のため医師または薬剤師として当局と雇用契約を結び、感染者の多い地域に出向いていた事は事実だが、治療内容は伝統的な芳香性の丸薬の処方などで、独自の手法はなかったそうだ。
ペストは非常に感染リスクの高い病気にもかかわらず、ノストラダムスは何度も流行地に出向いて治療行為を行うことができた点から、「ノストラダムスは誰も知らない高度な治療方法を知っていたのでは」という説が出たこともあったが、これについては、本人も知らないうちに現場で軽度のペストに罹患しており、抗体を得ていたのではないかという説が存在している。
(山口敏太郎)