「ヤンキースの正捕手はゲーリー・サンチェスですが、昨季はメジャー全捕手の中でワーストタイとなる15失策を記録しています。でも、34本塁打を放っています」(米国人ライター)
“日本式の配球”で一目を置かれている控え捕手もいる。カイル・ヒガシオカだ。日系4世で一昨年は何度か田中と組み、意気投合した。昨季はエース格のドミンゴ・ヘルマンと4試合、ジェイムズ・パクストンとも3試合だがバッテリーを組み、ともに防御率1点台のゲームを築き上げている。「田中効果」であり、ヒガシオカも「田中と他投手の好む配球を比べるのがとても面白い」と話していた。
日米間の捕手が占める試合の重要性、配球の違いだ。
その詳細は“企業秘密”だから、地元ニューヨークのメディアにも語られていない。日米間の捕手の違いとは…。
これは、ダルビッシュ有がメジャーデビューした頃、ア・リーグ中部地区の駐日スカウトが教えてくれた話によれば、「米国では、日本のように捕手がチームの勝敗を握るような位置づけはしていない」そうだ。配球面についても、こんな話もしてくれた。
「米国の捕手は味方投手の持ち球を全て投げさせようとする。それに対し、日本の捕手は試合前にやることが多すぎます。スコアラーがまとめた対戦チームの報告書を頭に入れ、そこから攻略法を話し合い、先発投手の状態を確かめ、試合終盤に出てくるリリーバーとも打ち合わせをしておかなければなりません。自分のウォーミングアップもあるし…」
田中は野村克也氏のもとでプロ野球人生をスタートさせた。故・野村氏がこうした「日本の捕手スタイル」を確立させたことは説明するまでもないだろう。
見方を変えれば、アマチュア時代から細部に渡った配球論を経験していない外国人捕手は「日本球界では不向き」ということになる。しかし、去る7月1日、中日は育成選手だったアリエル・マルティネスを「捕手」で支配下登録した。過去、何人かの外国人捕手がNPBでもマスクをかぶっているが、長続きはしていない。筆者もこのマルティネスをファーム戦で観たことがあるが、守備位置は一塁か、指名打者だった。とは言え、与田剛監督はマルティネスの強肩を買って、一軍でも捕手として試合で使っている。
関係者の一人が、中日が正捕手不在で泣いた2017年シーズンを指して、こう言う。
「正捕手不在となり、森繁和監督(当時)が『外国人の捕手を探そうか?』と言い出したんです。日本流の配球を教えるのは難しいと反対意見も多かったんですが…」
バリバリのメジャーリーガーではなく、当時20歳そこそこのマルティネスを選択したところに、「日本で育てる」の意図もあったのだろう。
前出の米国人ライターによれば、日本流の配球を嫌うメジャー投手も少なくないそうだ。城島健司(現・ソフトバンクフタッフ)がメジャーリーグで苦しんだ理由もこの辺にありそうだが、WBCなど国際大会で、海外メディアが必ず口にするセリフがある。「日本の捕手は投手だけではなく、試合そのものをプロデュースしている」――。
今季、ヤンキースとの契約が満了となる田中は大型更新を勝ち取るため、是が非でも好成績を収めたいところ。日米の配球の違いを楽しんでいるヒガシオカがそれをサポートしてくれるのではないだろうか。(スポーツライター・飯山満)