「セックス依存症」といえば、タイガー・ウッズをはじめ、元アメリカ合衆国大統領のビル・クリントンや元ボクサーのマイク・タイソン、俳優ではエディ・マーフィーやマイケル・ダグラスなども該当者であることが知られている。日本では、「セックス中毒」や「性依存症」といった呼び名もあり、おおまかな概念は知られているものの、実はいずれも正式名称ではないことや、その意外な詳細についてはまだ知られていない部分も多い。
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WHOによる国際的な疾病の診断基準では、「セックス依存症」という病名は存在せず、セックス依存症とされている症状は「性嗜好障害」として分類される。一方、アメリカ精神医学会による診断基準では、2013年の最新版(DSM-5)から、「過剰セックス障害」という新たな診断名として登場している。
セックス依存症に関してはさまざまな論争があり、性欲求・衝動の制御障害であるという見方もあれば、依存症や中毒症状として、あるいは強迫性障害の症状の一つとする考え方もあって、未だに確立されていない。
過剰セックス障害の傾向の基準には、「過去6カ月の間に大量の時間を性的な空想や活動に費やした」「不安や心配、退屈、イライラや悲しみ、ストレスなどのネガティブな感情を解消する手段として性的な空想や活動を行っている」「性的な空想や活動を減らそうとしたが、うまくいかなかった」などがある。ここで言う「性的な活動」とは、相手のいる性行為だけでなく、自慰行為、ポルノグラフィー鑑賞(漫画やアニメなども含む)、テレフォンセックスやアダルトチャット、ストリップクラブや風俗、売春行為なども含まれる。
そして、実際に過剰セックス障害と言えるかどうかは、「自分のした過剰な性的空想や活動で自己嫌悪や罪悪感を抱いた」「性的な空想や活動によって、仕事や人間関係などの社会生活に関わる重大な問題を起こした」のいずれかに当てはまるかどうかで決まる。逆にいえば、いくらセックス依存の傾向があったとしても、それが自分の中での悩みや人間関係の問題につながっていなければ、過剰セックス障害であるとは言えない。
罹患の原因は個人によって異なり、現在のストレスやプレッシャーと、幼少期の感情的なトラウマ、愛情不足や人間不信など、複合的な要因があるとされている。こうした、何らかの要因によってもたらされるネガティブな感情や不安感などのストレスが、性的な活動をすることで放出する脳内の快感物質によって解消されることから、行為依存の状態を引き起こすメカニズムとして考えられている。
また、この病気の罹患率に性差はなく、同様の症状で悩む女性も多くいる。その中には、過去に性被害に遭った経験を持つ人も少なくないという。
ある一般人女性の症例では、「パートナーがいるのに、毎日のように出会い系サイトなどで知り合った不特定多数の男性と性交渉をする」といったものや、「勤務中にもかかわらず、性的な衝動が抑えられなくてトイレで自慰行為を行ってしまう」といったものもある。
現在、これらの症状に対して主に用いられている治療法は、投薬や心理療法、カウンセリングなどで、ほかの依存症と同じくグループカウンセリングが有効とする見方もある。
渡部の場合、関係者の証言から次々と明るみになっている性事情の実態や、自身がセックス依存症であると語っていたとされることから、過剰セックス障害であることを疑われても無理はない状況だ。しかし、本人が専門医のもとで正式に診断を受けていない限りは、本人も含め、誰もが断言できるところではない。
文:心理カウンセラー 吉田明日香