豊田氏の暴言は同年、『週刊文春』(文藝春秋)などで報道され話題になった。インタビューの中で豊田氏は、厚生労働省から政界入りした動機について、「子どもの頃から自己肯定感が低く、それもあって人の役に立つ仕事に就きたいと思い続けてきました」と語っている。自己肯定感が低い人の中には、このように、強い奉仕精神を持つ人が少なくない。この奉仕精神は、社会や福祉に対するものに限らず、会社に対して、特定の上司に対してなど、より小さなこと、人を対象とする場合もある。
これは、自身の低い自己肯定感を無意識のうちに高めようとする心理メカニズムの一つと捉えることができる。「人の役に立っている」という感覚は、自分に価値があることを実感し、存在を肯定するものであり、自己肯定感を高める働きがある。自己肯定感が低すぎると、心の健康を脅かすだけでなく、最悪の場合、自殺につながるケースもあるため、軽視できない重要な感覚でもある。
ただし、睡眠時間を大幅に減らしたり、過剰労働もいとわないような行き過ぎた奉仕活動は、結果的に高ストレス状態を引き起こしてしまう場合がある。議員職に就いていた当時の豊田氏も、慢性的にこのような状態にあったと述べている。
そして、当時の心境について、数日間で秘書のミスが相次ぎ、地元支援者の信頼を次々と損なう事態になったことが悪影響を及ぼしたとし「必死で積み重ねてきた地元の方々との信頼関係がことごとく壊されていくという恐怖から、パニック状態に陥っていた」と語っている。
当時の豊田氏にとって、支援者との信頼関係は仕事上で必要なものというだけでなく、自身の自己肯定感を支える上でも非常に価値が高いものだったに違いない。そんな豊田氏にとって、支援者の信用を失ってしまったという事実は、あまりにも致命的なショックだったはずだ。ましてや、その原因が部下の行動だったということもあり、強い被害者意識も相まって、暴言につながってしまったと考えられる。
また、自己肯定感が低く怒りっぽい上司は「自分にできるのだから誰にでもできるはず」という思いから、「できないのはさぼっているからだ」「努力が足りない」と解釈して怒りにつながっている、とする見方もあるが、豊田氏にも少なからずそうした思いがあったのかもしれない。
いずれにしても、ひどい暴言によって他人を傷付けてしまったことに変わりはない。世間から大バッシングを受けた豊田氏は、その後猛省し、死ぬことばかり考えていた時期もあったという。しかし、自ら命を断つことによって、子供たちに「自分は母を生につなぎとめるほどの価値を持たなかったのだ」という痛みを一生抱えさせるわけにはいかないとの一心から、踏みとどまることができたと語っている。そして、自分の未熟だった部分と向き合い、家族や友人、支援者など周囲の人々に支えられながら、何とか立ち直ることができたようだ。
自分が家族や友人ら周囲から必要とされているという実感は、自己肯定感を高める上でとても重要なキーポイントになる。また、自分の好きなこと、得意なことや長所などポジティブな面を見つけて、普段からそれをより強く意識するというトレーニングにも自己肯定感を高める効果がある。そして、そういった自分の持つ特徴が活かせるような活動につなげていき、成果を実感することができれば、より自己肯定感を高めることができるだろう。
文:心理カウンセラー 吉田明日香
記事内の引用について
『婦人公論.jp』より https://fujinkoron.jp/articles/-/2072