パ・リーグ優勝チームの埼玉西武ライオンズが巨人との練習試合に勝利した(6月2日)。注目の「新1番」に抜擢されたのは昨季の盗塁王・金子だったが、存在感を見せつけたのは、スパンジェンバーグの方である。
「辻監督は昨秋のキャンプ時点から、金子の努力を認めていました。今春キャンプでもメディアの取材で、『1番に定着しようと必死にアピールしている』と話していました」(スポーツ紙記者)
安打製造機・秋山(現レッズ)のメジャーリーグ挑戦により、西武は1番バッター不在に陥った。昨季は「1番金子、3番秋山」でスタートしたが、打線がつながらず、得点効率を高めるため、辻監督は「1番秋山」の打順に戻している。その後、投打もかみ合い、8月以降の快進撃で逆転優勝を遂げている。金子の1番バッターは“再挑戦”でもあるのだ。
辻監督が金子に期待しているのは本当だが、こんな情報も聞かれた。「スパンジェンバーグを1番にしたら面白いんじゃないか?」と、何度か口にしてきたそうだ。チーム関係者がこう続ける。
「秋山のメジャー挑戦は早い段階から球団も認めていたので、スパンジェンバーグは19年12月と、早い時期に契約しました。外国人選手を絞り込んだ後、辻監督も映像を見ているんですが、『アグレッシブな選手。足も速いし、チームの士気を高めてくれそうな…』と話していました。長打力もあり、攻撃的な、新しい1番バッターとしてその可能性を感じ取っていました」
2日の巨人戦では、菅野からソロアーチを放っている。だが、メジャーリーグ、マイナー時代のデータを見てみると、1番での試合出場はほとんどない。辻監督は米球界時代とは異なる新たな可能性にも期待したわけだが、やはり、「金子で行く」との見方が強い。
「優勝した18年のオフ、菊池雄星、浅村、炭谷が抜け、それでも19年は連覇を果たしました。19年オフは秋山が退団しました。西武は優勝しても主力選手の流出が止まりません。現場を預かる辻監督は大変だと思いますが、18年の優勝よりも19年のようなチームスタイルを理想としています」(前出・関係者)
どういう意味かというと、18年は4月から首位をキープしてそのまま優勝した。19年は投打の主力選手が抜けたため、打線を改造した。それが「1番金子、3番秋山」の打順だった。「1番秋山」に戻したのとほぼ同時期に、打撃不振に陥っていた山川穂高を7番に下げ、ベテラン・中村剛也を4番に戻している。辻監督は選手を育てるために我慢もするが、失敗したら改める柔軟な発想力を持っている。ライバルチームに追い掛けられていた18年よりも、尻上がりにチームの調子を挙げていき、逆転優勝した19年の方が、選手はもちろん、辻監督自身も精神的にラクだったという。
1番バッターの定着を狙う金子に対し、「好きにやらせてやろう」と思っているのだろう。辻監督と言えば、試合中は腕組みをし、眉間に深い皺を寄せ、コワイ表情でグラウンドを見ている印象も強い。しかし、「本当は饒舌で優しい」(前出・同)という。打線の力で勝ってきた。金子が1番バッターとして覚醒できれば、辻監督が試合中にコワイ表情を見せることがなくなるのだが…。(スポーツライター・飯山満)