遺体が発見されたのは午前7時20分頃。自室があるマンション10階のエレベーターホールで血を流して倒れているAさんを同マンション住民が発見した。発見した住民はすぐに警察に通報したが、警察官が駆け付けた時には既にAさんは亡くなっていたという。
警察の調べによると、Aさんは右目の上から左後頭部に弾を撃ち抜かれたような痕が残っており、正面から至近距離で射殺された可能性が高いそうだ。ほかには外傷はなく、Aさんの部屋も物色された様子や荒らされた形跡は見当たらなかった。
警察は現場検証を進めると共に、マンション住民への聞き込みなどを開始。しかし、目撃証言はおろか、犯人に繋がる手がかりすらもほとんど見つからない状況が続いた。事件が起きたマンションは中央玄関が完全なオートロック式となっており、出入りした人物が記録される仕組みになっていたのだが、新聞配達員以外の人物が出入りした形跡が見つからなかった。
事件が動いたのは、Aさんが殺害されてから約3か月後の11月11日。男から大阪市の住友銀行本店に「融資してくれなければ、青酸カプセルを飲む」という一本の電話が届く。ほどなくして、当時73歳のBが本店に現れたのだが、Bは短銃を手にしており、銀行員が警察に通報。駆けつけた警察官によってBは逮捕されることになる。問題はここからだ。取り調べの最中に突然Bは「このピストルで名古屋支店長Aをやった」と自供した。Bが所持していた銃を警察が鑑定にかけたところ、Aさんの殺害に使われていた凶器であることが判明。Aさん殺害の容疑に関しても取り調べが行われることになった。
しかし、Bの供述には多くの矛盾点があり、実行犯であると裏付けできるだけの証言内容は得ることが出来なかった。後に、Bは実行犯であることを否定し、「事件について知っているが言えない」と口を閉ざすようになっていく。結局、Aさん殺害事件にBが関係している証拠は見つからず、立件は見送られた。
警察は銃の入手経路について捜査を進め、Bに銃を貸した暴力団幹部を特定。銃刀法違反で暴力団幹部を逮捕・起訴までこぎつけたが、Aさんの射殺事件に関する供述は得られなかった。住友銀行を巡っては、銀行支店や頭取自宅に火炎瓶が投げられるなどの事件が相次いでいたが、そうした事件との関連も分かっていない。Bはなぜ凶器の拳銃を所持していたのか。銃をBに渡した暴力団幹部の意図は何だったのか。