「弘道会の複数の傘下組織が通知した破門や除籍の状が、業界内に出回ったんだ。処分自体は珍しいもんじゃないが、今回はその数が多すぎるから、何か意図があるんじゃないかと関係者の間でも話題になった」(他団体幹部)
出回った状は全部で10枚。福島康正舎弟頭が率いる福島連合など、弘道会直系5組織の名がそれぞれ書かれ、全17人を昨年12月から今年2月までに処分したことを示していた。特に2月上旬に集中しており、弘道会若頭を務める野内正博組長の野内組から破門1名、現在は服役中である弘道会若頭補佐・南正毅組長の三代目髙山組に至っては、除籍13名という多さだった。
「野内組からの破門者については、北村隆治顧問が初代となる野内組傘下の二代目北村組を巡る事件が関係しとると思うで。去年6月に大阪府警が北村組にガサ入ったとき、逮捕状が出とる組員が事務所から姿を消したそうや。あとで出頭したと聞くが、府警は一時的に逃走させたとみて、北村顧問を公務執行妨害と犯人隠避の疑いで逮捕したんや。
北村顧問は起訴されて、大阪地裁で公判が始まろうとしとった。逃走したいう組員と今回の破門者の名前が同じやし、上の逮捕、起訴に繋がった事件やから、野内組は処分を下したんやないか」(在阪記者)
しかし、髙山組からの処分者に関しては、理由が判然としない。
「弘道会直参でもあり、髙山組若頭を兼任する石原道明組長の三代目矢嶋総業を含めて、複数の髙山組傘下組織が若中たちを除籍しとる。高齢の場合は単なる引退とも考えられるんやが、状に記された年齢を見ると60代は1人だけで、あとは20代から40代の“若手”や。所在地も東北や関東、中部、関西とバラバラやで。不祥事があったいうのも具体的には聞こえてこんし、どないしたんやろか」(同)
今回の処分が一部で取り沙汰された背景には、髙山組からの処分者が異様なほど多かったという点がある。
神戸山口組(井上邦雄組長)との分裂抗争において、弘道会からは3人のヒットマンが出ており、先陣を切って攻勢を仕掛け続けた印象だ。中でも髙山組から出た実行犯が引き起こした事件は、当時、抗争の流れを変えたとさえいわれたのだ。
平成28年5月、髙山組系組員(当時)が神戸山口組傘下池田組(池田孝志組長=岡山)の若頭を射殺。それまで全国各地で車両特攻などの抗争事件が爆発的に起きていたが、4月に神戸山口組が指定団体に指定されると、ピタリと止まった。5月末に世界各国の首脳が集まる伊勢志摩サミットが開催される関係もあり、抗争は“自粛ムード”になっていた。ところが、そのサミットが終了した数日後、図ったかのようなタイミングで岡山での射殺事件が起きたのである。
「実行犯は当初、池田組トップの池田組長を狙っていたというが、ガードが堅いために断念し、ターゲットを若頭に定めた。この事件は、分裂後では初めて神戸山口組直系組織の最高幹部が狙われたもので、業界内外に衝撃を与えた。それと同時に、弘道会が武力をもって分裂終結に動いたと印象付けたわけだ」(業界ジャーナリスト)
こうした背景をもとに、今回、髙山組から13名の除籍者が出たことは、ただの処分ではないとの見方もされた。ましてや、今年2月2日には三重県にある六代目山口組・髙山清司若頭の邸宅に、銃弾が撃ち込まれる事件が起きている。
「13名の処分状に記された日付は、すべて2月5日だ。つまり、髙山若頭邸への銃撃が起きた3日後になる。業界では状の日付が処分を決定した日とは一概に言えないが、どうも違和感がある。弘道会に限った話ではなく、組織から同時に複数の処分者が出た場合、真っ先に思うのが“潜らせたんじゃないか”ということだ。
全員ではないにせよ、何人か紛れ込ませることはある。目的はその人間が犯罪を犯す、もしくは犯した場合、組織とは縁の切れた者であるとして、上位者への警察の追及を回避するためでもある。抗争が続く中で、六代目山口組は分裂終結を急いでいるだろうから、うがった見方をしてしまうな」(前出・他団体幹部)
髙山若頭邸への銃撃事件では、五代目山口組時代(渡辺芳則組長)の直系組織だった中野会(解散)の元組員が銃刀法違反などの容疑で逮捕、再逮捕された。三重県警は、神戸山口組との繋がりも視野に取り調べを進めているといわれ、六代目山口組による報復も危ぶまれる最中なのだ。
★本家直参を傷害容疑で逮捕
しかし、ある関西の組織関係者は一笑に伏す。
「組織の方針に反した事件で逮捕されたとか、指名手配されたとかで組員の名前が出たなら、処分の理由は明確だが、そうでない場合などは普通、詳細なんぞ分からんもんやぞ。三次団体や四次団体の組員なら、なおさらや。それに分裂抗争で岡山、名古屋、五代目山健組(中田浩司組長=兵庫神戸)の組員2人が射殺されたそれぞれの事件で、弘道会から出たヒットマンは、当時、全員が現役組員やった。せやから、状までまいて(配って)潜らせる必要なんぞ、今さらないやろ」
警察当局は、万一の事態に備えて取り締まりを強化しており、3月7日には弘道会の統括委員長に昇格したばかりの松山猛・十代目稲葉地一家総長を、愛知県警が風営法違反の容疑で逮捕した。松山統括委員長は2月上旬に舎弟に直り、若頭補佐から昇格。県警が警戒を強めたことがうかがえたのである。
一方で、六代目山口組では3月3日、親戚団体の東声会・早野泰会長の誕生祝いのため、藤井英治若頭補佐(五代目國粹会会長=東京)、浜田重正・二代目浜尾組組長(神奈川)、佐藤光男・落合金町連合会長(東京)が、都内にある東声会本部を訪問。変わらぬ絆の強さを感じさせた。
ただ、六代目山口組の動向を危惧してか、翌4日、直参の植野雄仁・二代目兼一会会長(大阪中央)ら6人が、大阪府警によって傷害の疑いで逮捕されたのだ。
「昨年5月、東大阪市の関係先で当時組員だった男性に対し、暴行を加えたとされています。どうやら素手ではなかったようで、顔を殴られた男性は全治1カ月の打撲を負った上、左目を失明する重傷だったそうです」(全国紙社会部記者)
植野会長は、一昨年12月にも府警によって逮捕された。昨年6月には証拠隠滅の罪で、大阪地裁から執行猶予付きの有罪判決を受けたが、またしても現場不在を余儀なくされたのである。
また3月5日には、組員の脱退を妨害したとして組織犯罪処罰法違反(組織的監禁)などの罪に問われた新井錠士・二代目章友会会長(大阪北)らの公判が大阪地裁で開かれた。この日は、同罪などに問われた部屋住み組員の被告人尋問が行われ、被害者の元組員の様子について証言。
被害者は章友会幹部から「坊主にしろ」と強要されたと話したが、それについて部屋住み組員は「(被害者から)バリカンでやってほしいと頼まれたので頭を刈った。頭を押さえ付けたりもしていない」と述べ、幹部からの指示も否定。携帯電話を取り上げられていたという被害者の主張についても、「午前8時から午後5時まで預けるが、それ以外の時間帯は自由に使えた。被害者も同じで、午後5時になると誰よりも早く携帯を取りに行っていた」と明かしたのである。
「被告人尋問やから自分に不利になるような証言はせんが、これまでの公判でも防犯カメラの映像や通話記録によって、被害者が主張するような監禁状況にはなかったことが明らかになっとる。組織ぐるみで監禁したいう検察側のストーリーには、すでに矛盾が生じとるわけや」(地元記者)
被害者の元組員が所属した組織は当時、章友会から敵対する山健組に移籍しており、山口組分裂の余波が及んだ事件といえた。
「分裂問題が深刻化する中で、法廷闘争や直参に対する逮捕劇が続いとる。六代目山口組の敵は神戸山口組だけやなく、警察当局でもあるいうことやな」(同)