本書は、妻を6年前に亡くした70歳の男性が主人公。高齢者が主人公だが、紗倉は同年代を主人公にするより感情移入して書けたと感想を述べ、「わたしが属しているアダルト業界で、リリースイベントに定期的に来てくださる人がその世代の方が多いんです。わたしの中では、高齢者の方も身近な親近感のある存在です」と説明。「五輪の余波でエロ本なども規制される中、そういった人たちの性欲処理やさみしさの補填はどうなっているのだという興味が、この本で高齢者の性を描くことにつながりました」と話す。
小説を書くことについては、「読むのは子供の頃は苦手でした。どちらかというと嫌いなくらいだったんです。作文も苦手意識があったのに、それが高専に行って文芸誌を友達に薦められたのがきっかけで読むようになって、そこから好きになったんです」と照れくさそうにコメント。桜庭一樹や村上春樹の小説をよく読んだといい、その後、小説を自分でも書き始めると、「書きたいことが結構、ポンポン浮かぶようになりました」と嬉しそうに話し、「今後も作品にそれを落とし込んでいけたら」と作家活動に前向きな姿勢。
一方で、世の中が最近、性の世界を隠蔽するような風潮に戸惑いを覚えているともコメント。オリンピックを前にエロ本が書店やコンビニから排除される傾向にあることを嘆きつつ、「そういうコンテンツにいるわたしは何とも言えない気持ちになります。卑猥と感じるかどうかは個々の価値観。わたし自身もそれを考えていかないといけないのかなって。でも、エロ本が排除されるのは寂しいです。自分の属するアダルト文化も縮小していくのかと思うと、考えさせられるものがあります」と話していた。
(取材・文:名鹿祥史)