タイといえば“おめでたい”に通ずる縁起のいい魚ですから「新たな年の始まりに一発バチッと美しい天然のマダイを釣り上げて、今年1年に弾みを付けて行こう!」ってな意気込みでございます。
ということで、兵庫県の明石へとやってまいりました。数あるタイの産地の中でも、明石の天然マダイといえば、やはり確固たるブランド力がありますからねぇ〜。
JR明石駅に降り立ちまして、駅前通りを海に向かって歩くこと10分ほど。釣具店にてエサや仕掛けを買い込んで、店の裏手に係留してある船に乗り込みます。そう、この店が堤防への渡し船の拠点なのです(※渡し船は有料)。
今回の釣り場は「明石一文字」と呼ばれる離れ堤防(地続きではない堤防のこと)でして、混雑無縁の広々とした堤防で思いきり竿を振ろう、という目論みです。
乗り込んだ船はすぐに離岸し、ゆっくりと沖を目指します。岸壁にはズラリと釣り人が並んでおり、なかなかの賑わいです。それを眺めているうちに、沖一文字に到着。船酔いする暇もないわずかな船旅です。
堤防にはカレイを狙っていると思しき人がチラホラおり、ちょうど30センチほどのカレイを釣り上げる場面に出くわしました。
「う〜ん、カレイか…」
いや、今回は正月用のタイや! 初志貫徹や!
そう気合を入れ直し、一段高い沖側に釣り座を構えてタイ狙いを開始します。
さて、この堤防は潮の流れが速いことで知られる明石海峡に面しております。この日も投げ入れた仕掛けが結構な速度で潮に流されましたが「オモリが止まった所=障害物周り=好ポイント!」の鉄則を信じて、ひたすら仕掛けの打ち返しを繰り返します。
元々、1日やって1尾釣れれば御の字という魚ですし、しかも陸から狙うには少々厳しい時期でもあります。ですから、他の魚に目移りせずに「強い志」を持って狙い切ることが大事なんでありますな。
★弱きに流れ外道に歓喜
して、正午をすぎました。まったく釣れません…。なかば無の境地に達しかけていましたが、内側で竿を出していたカレイ狙いの釣り人から声が上がりました。
「チャリコやわぁ〜」
そう呟きつつ苦笑いでリリースする姿が…。
そうや、チャリコ(マダイの幼魚)も立派なマダイやん! もう、こうなったら大人も子供も関係ない! 志は低い方に流れるんや!
初志貫徹は何処へやら。そそくさと内側へと移動です。港内に面した内側は、流れが緩い上に対岸は目と鼻の先。短竿でチョイと仕掛けを投げる釣りで十分です。
「明石のタイ(チャリコ)よ、掛かってこんかい!」
臨機応変な作戦変更は早々に実を結び、早くも「クンッククンッ!」と竿先が揺れました。
「これで明石の天然マダイ(チャリコ)をゲットやで〜」
あれ、チャリコにしては引きが強いぞ? 大きくはなさそうですが、トルクのある力強い手応えです。
「ちょっといいサイズのチャリコかも?」
そう期待しながら巻いてくると、くすんだ赤褐色の魚影が見えました。チャリコなら白いはずですが…。
そのまま抜き上げた魚は…、名前には一応“タイ”と付いていて、色も赤いヤツでした。ただ、コイツは残念ながらマダイではなく、カンダイ(コブダイ)という魚…。
「まぁ食べてウマいからコイツでええやん!」
寒風で体が冷えてきたこともあり、さっさと竿をたたんで迎えの船に乗り込んだのでありました。
★実はベラ科!?でもゆえに旨い
このカンダイ、“タイ”と名は付いているものの実はベラ科です。ベラ科の魚は成長に伴ってメスからオスに性転換するものが多く、当種はオスになった個体にのみ頭部のコブが発達します。
その昔はあまりに見た目が違うため、オス→コブダイ、メス→カンダイと種類自体が違うと思われていたようです。してコイツはコブなし個体だから…、つまり…、うら若き乙女ってワケですな。グヘヘ?
そんなカンダイを今回は煮付けてみました。ベラ科の魚らしく、身離れのよい白身は甘みが強く非常に美味です。この甘みと『菊正宗 純米樽酒』の杉の香りが実にベストマッチ。結局、明石のタイにはフラれましたが、ウマイ肴で晩酌ができたことに感謝です!
てなわけで2020年も、こんな感じでゆるりと全国を釣り歩いてまいりますので、引き続き宜しくお願い致します
***************************************
三橋雅彦(みつはしまさひこ)子供の頃から釣り好きで“釣り一筋”の青春時代をすごす。当然の如く魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。