2017年、虐待で抵抗できない精神状態にあった当時19歳の実の娘と性交したとして、準強制性交等罪に問われていた父親に今年3月26日、無罪判決が言い渡された。名古屋地裁岡崎支部は、性交について娘の同意がなかったと認定したものの、抵抗不能の状態に至っていたとは断定できないとしている。4月8日、名古屋地検岡崎支部は判決を不服として控訴した。
抵抗できない状態にあったと主張する検察側に対し、被告側は同意のもとで性交は行われており、被告は娘が抵抗できない状態だったとは認識していなかったと訴えていた。
長年にわたる性的虐待と、意に反する性交の事実が認定されたにもかかわらず、無罪判決が下された今回の事件に、ネットでは疑問の声が相次いでいる。コラムニストの犬山紙子氏が4月4日、ツイッターで「何を変えたらこんな狂った判決でなくなる?絶望」と投稿すると、賛同の声が殺到。「許せない」「日本の司法制度はおかしい」「何で虐待の事実があるのに無罪になるの?」など、日本の法律に問題があるのではと考える人たちの声が多く見られた。
なぜ性的虐待の事実がありながら無罪となったのか。刑法の性犯罪規定で「暴行・脅迫が証明できなければ罪に問えない」とされている点が判決に影響したと考えられる。2017年には刑法の性犯罪規定が110年ぶりに改正され、厳罰化と適正化が進められたと言われていたが、当時からこの点は懸念されていた。弁護士など専門家は、客観的に見て被害者の「抵抗」が明らかでなければ罪に問われない可能性があることを危惧していたようだ。
約60年前には、実父による娘への性的虐待事件で、今回の判決とは真逆の「名裁き」ともいえる裁判があった。この裁判によって刑法200条が憲法に違反するとされ、1995年には刑法200条が削除された。親による性的虐待事件が刑法を変えたのである。
1968年10月5日、当時29歳の娘が、自身に性的虐待を繰り返していた実父を殺害する事件があった。親を殺した場合に適用される刑法200条の「尊属殺人」は通常の殺人よりも刑が重く、当時は死刑、あるいは無期懲役の判決が下されていた。しかし、被告である娘は14歳から実父に性的虐待を受け、父親との子どもを3人育てていた。性的虐待の被害者であった被告に「死刑か無期懲役というのは重すぎるのではないか」という声が噴出。1973年、最高裁は刑法200条(尊属殺)を憲法14条(法の下の平等)に反し無効と判決。情状酌量して懲役2年6月、執行猶予3年の刑を下した。この判決は日本初の法令違憲判決として今も語り継がれている。
事件の実態に即した判決を下した昭和の事件とは対照的に、平成の裁判所は性的虐待の被害者に寄り添っていないのではないかという声が多く挙がっている。 「令和」に変わるまで約1ヶ月、刑法の性犯罪規定改正は誰を守るために行われたのか、今一度考え直す必要があるのではないだろうか。