ペナントレースは143試合を戦う。序盤戦の4月に負けが込んでいても、10月初旬に80勝以上をおさめていれば優勝できる。序盤戦は“調整”の様相もある。だから、優勝予想されたチームが出遅れたりもする。「序盤戦の勝敗は関係ない」と言う関係者も多いが、早くも「分岐点」となるような試合が起きてしまった。
敵地広島で、横浜DeNAベイスターズが連勝した。とはいっても、DeNAは3勝5敗。首位・広島は勝率6割6分7厘で「今年も強い」といった印象は変わらない。しかし、ゲーム展開を細かく見てみると、後半戦まで影響しそうなダメージ・シーンもあった。
「第3戦目(4月8日)の勝因は、筒香(嘉智=26)の一発です。やはり4番が打つとチームが勢いづきます」(プロ野球解説者)
開幕から8試合目、31打席目での本塁打はちょっと遅かったが、次打席でもセンターバックスクリーンに連続アーチを放っており、ラミレス監督(43)も「今年はブレークする。爆発的な数字を残すと思う。40本以上打てる」と興奮ぎみに語っていた。
先のプロ野球解説者がこう言う。
「筒香の打率は1割台。開幕から調子が上がらず、3連覇を目指す広島からすれば、もう暫く筒香が不振でいてくれたらと思っていたはず。昨季のクライマックスシリーズで広島がDeNAに負けた敗因も筒香でした。DeNAは筒香の好不調がそのまま勝敗に影響するチームなので」
筒香を目覚めさせてしまったのは、広島の先発・大瀬良大地(26)だ。本塁打献上は結果論だとしても、筒香に一発を浴びた直後のマウンドでちょっとしたハプニングも見られた。二死一塁、一塁走者が二盗を決めると、緒方孝市監督(49)は「申告敬遠」を指示した。バッターボックスにいた嶺井のカウントは「0−3」。今季からルール変更され、ピッチャーが球審に申告すれば、対戦打者に一球も投じずに一塁に歩かせることができる。途中からの申告も認められており、緒方監督は二死一・二塁という場面を造らせた。大瀬良にそう命じたのは「対戦バッターの嶺井は好調だ。ここは無理をするな。次打者はピッチャーなんだから、次の打者でちゃんと抑えろ」の意味だろう。
しかし、緒方監督は嶺井が一塁に歩き始めるのと同時に、「ピッチャー交代」を告げた。これでは、大瀬良のプライドはズタズタである。
「広島投手陣ですが、昨季15勝を挙げた薮田(和樹=25)に一抹の不安があります。初戦登板で勝ち星がつきましたが、5回で交代し、リリーフ陣が踏ん張ってという内容でした。今年は大瀬良にもっと勝ってもらわないとなりません」(前出・プロ野球解説者)
試合後の緒方監督は「急にバランスが悪くなって、球が弱くなった気がした」と、非情交代の意味を語っていた。
申告敬遠後のバッターボックスに立ったのは、相手ピッチャーだ。大瀬良クラスなら、バランスを崩したとしても「安打を放つ可能性が低いピッチャー相手」なら、抑えられると思うのだが…。
指揮官によって、考え方は異なる。主力投手の調子が悪いとき、我慢して使い続けることで次に繋げようとする監督もいれば、非情に徹するタイプもいる。緒方監督はどちらかというと、前者のタイプだった。
「緒方監督の過去3年の采配を見ていると、投手継投がワンテンポ遅いくらいでした。我慢しすぎて、次に登板したリリーフ投手に余計な負担を与えてしまうこともありました。一昨年の日本シリーズ、昨年のクライマックスシリーズを落としたのはそのため」(球界関係者)
緒方監督が采配を代えたのは勝利に徹する必要性を感じたからかもしれない。この執念は否定できない。今後、非情交代を告げられた側の大瀬良はどうなるのか? 走者を背負う度に「交代か?」と思い、ベンチのほうをチラ見するようなことにならなければいいのだが…。
打率1割台でも筒香を4番から外さなかったラミレス監督と、非情に徹した緒方監督。この試合の勝敗は、選手のハートに大きな影響を残したようである。