「高橋尚成の抜けた穴がこんなに大きいとは思わなかったな。1年間、ローテーションを守って、10勝した高橋尚成の存在価値を今さらながら思い知らされたよ」。巨人OBの1人がしみじみと語る。
高橋がメッツへFA移籍した際には、巨人現場首脳、フロント首脳ともに、それほど問題視していなかった。昨年15勝したゴンザレス、13勝のグライシンガー、6勝のオビスポの外国人投手トリオ。9勝に終わった内海の復活。8勝の東野の成長。さらには、原監督が切り札に考えていた山口の先発転向。日本ハムからFA移籍した藤井。西村、野間口、福田らの底上げ。ローテーションを作るのに、候補は数多くいると楽観視していたからだ。
が、計算通りだったのは東野の成長だけ。山口のリリーフ再転向、外国人トリオの総崩れなど誤算だらけ。というよりも、甘い見通しだったことが、証明されてしまったのだ。一方、マイナー契約からメジャーに昇格したメッツ・高橋は先発、リリーフにと大活躍をしている。巨人OBが嘆くように、高橋の存在価値が改めて見直される事態になっているのだ。
5年ぶりにリーグ優勝した07年に14勝4敗。防御率は2.27でタイトルを獲得している。連覇の08年は8勝5敗に終わっているが、リーグ3連覇の昨年は二ケタ復活の10勝。こう成績を振り返ってみても、高橋が巨人の3連覇に果たした功績は小さくない。が、原監督は左腕エースとして、内海を高く評価していたために、高橋を過小評価して、早めの交代の繰り返し。不満を募らせた高橋がFAでメジャー移籍という、結果になったのだ。
その内海も今や第二の高橋になりそうな雲行きになっている。昨年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本代表、侍ジャパンに選抜して、さらに飛躍を期待したのに、裏切ったということで、「ニセ侍」発言して波紋を呼んだこともある。
先発陣崩壊は、原監督の自業自得と言えるが、球団フロント首脳の責任も大きい。キャンプが終わってからヒジの手術をしたグライシンガーなど、フロントの怠慢以外の何物でもないだろう。15勝したゴンザレス、6勝のオビスポの救世主コンビには甘やかしの待遇。年俸3000万円のゴンザレスを1億1000万円に、480万円のオビスポにも2000万円と大幅昇給させ、ハングリー精神を奪ってしまったのだ。
リリーフ陣にも、フロント首脳の無能ぶりが表れている。もう限界が見えている年俸3億円のクルーン、2億円のマイケル、1億8000万円の豊田を残留させただけではない。インディアンスから3年ぶりに日本球界復帰を目指した、元セーブ王の36歳の小林雅を年俸5000万円で獲得している。
巨大な不良債権とも言える投手たちを整理せず、残せば、原監督としたら高年俸を考え使わざるを得ないし、若手のチャンスを奪うことになる。高橋のメジャーFA移籍に端を発した巨人投手陣の崩壊は、原監督、フロント首脳コンビが起こした人災と言えるだろう。