鳥居をくぐると、冷やりとした風が迎えてくれた。外界とは違う、神聖だが身の毛がよだつような空気を感じる。ふと見ると、腕には大粒の鳥肌が立っていた。灯篭が整然と並ぶ参道を歩き、お手水舎で手と口を清める。勇ましい姿の狛犬のお出迎えを受け、平成の大改修を終えた奇麗な黒塗りの御社殿へ。参拝を済ませて人気のない境内を歩く。奥にひっそりと佇んでいる稲荷神社に目が留まる。三十三社と書かれてある。
驚いたことに、そこには古びて苔むしたお稲荷様の祠が山と積まれてあった。お稲荷様絡みの怪談話は多く、下手に扱うと祟るとも聞く。しかし、ここの祠はちゃんとお祓い済みであろう。だが、立ち昇る妖気に、私は畏怖の念を感じてカメラのシャッターを切ることができなかった。近くには、たいへん大きく立派なお社も置いてあった。なぜか叩き壊したような傷がついており、木が割れている部分がある。
古くなった社を取り壊そうとした時、何か障りが起こり途中で止めたのではないか? と、思わず想像してしまう。どこから持って来たのか、他に馬頭観音のような像もたくさん置いてある。祀られることがなくなったり、何らかの理由で撤去された祠・お社・仏像等がこの神社には集まっているようだ。
あまり公にできない事情もあるのでここには書けないが、また機会があれば追って調査したい。その他に、勝負事の神様として千勝神社(ちかつじんじゃ)がある。合格祈願、選挙、ギャンブルなど、願を掛けに来る人が多い。ここでお参りした時はパチンコで負けたことがないという方もいらっしゃる。
薬師寺八幡宮は、夢福神がいる栃木県九難除神社めぐり、下野八社の一社でもある。
下野薬師寺跡も近い。土地そのものにパワーを感じられる、謎を秘めた神社である。
(「怪談作家」呪淋陀 山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou