余計なことはしなくてもいい。馬が勝手にスイッチを入れ、闘志をむき出しにしてくれる。そんなしびれるような感触が戻ってきた。四位騎手ははっきり感じ取った。
「近くに馬がいるとそれに負けまいと自らハミを取っていく。いいころの気配が漂ってきたね」と静かにうなずいた。
ディープスカイがいよいよ戦闘モードに突入だ。18日の栗東DWコース。格下のヒルノラディアン(3歳1000万)を先行させ、それを見ながら徐々に間合いを詰めていった。そして直線、軽く仕掛けられると軽々と抜き去った。未明から降り続いた雨に馬場はかなりぬかるんでいたが、そんなこともお構いなしだった。馬体にも無駄がなく、ただ硬質で厚みのある筋肉が雨粒を弾いていた。
6F80秒0、ラスト1Fは12秒3という鋭さ。「相手が走る馬じゃなかったのでああいう形を取った。ラストはサッといい感じで抜き去ってくれたね」。そう語る四位には不安なことがひとつあった。札幌でまたがったとき、感触がやや物足りなかったのだ。だが、もう心配ない。「なんだかまだ牧場にいると勘違いしているような…だけどトレセンに帰ってきてピリッとしたね。さすが」と笑みを浮かべた。
NHKマイルCを制し、その勢いでダービーもぶっこ抜いた。史上2頭目の変則2冠馬として春に確固たる王者の地位を築いた。だが、この秋もキーワードは挑戦。守りに入っている暇はない。道は2つだ。菊花賞で前人未到の変則3冠に挑むか、天皇賞で古馬に挑むか。どちらも魅力的な選択肢ではあるが、やはりマイルから3000メートルまでのGIを勝つという離れ業を見てみたい。
四位は言う。「変則2冠馬が秋も活躍した例はないから」。先輩のキングカメハメハはこの神戸新聞杯を勝った後、屈腱炎に倒れ、引退を余儀なくされた。だからこの言葉に力を込めた。「とにかく無事にいってほしい。そうすれば…」。無事に走り、そして距離への不安を払拭すれば、その先にはだれの蹄跡もない。