午前7時20分。江戸川区の葛西臨海公園に米海軍のホーバークラフト上陸用舟艇「LCAC」が猛烈な水しぶきをあげて乗り上げた。陸地で器用に方向転換すると、プシューッと空気が抜けて乗船タラップが降り、迷彩服の米兵が飛び出してきた。上陸作戦成功だ。
デカい。小雨の降りしきる中、不安げな表情で待機していた帰宅困難者役の都職員ら66人が米軍の指示に従って同艇に乗り込む。約10分ほどで乗船は完了した。
人員輸送用のコンテナ内には対面式の片側20人掛けベンチシートが並ぶ。パイプに布を張っただけだが座り心地は悪くない。うなりを上げるエンジン音対策に手渡された耳栓をする。沈黙の空間でシートベルト装着に手間取っていると米兵が手伝ってくれた。みな親切だ。
再び空気が注入されていくのを尻で感じる。十数分で沖合待機中のトーテュガ後部に到着した。大きな振動もなく滑らかに母艦に収納され、参加者は後ろ手に組んだ米兵の“花道”に出迎えられてトーテュガ艦内に足を踏み入れた。
トッドA・ルイス艦長は「お忙しい中、ようこそこの軍艦へ」と挨拶。同艦の性能などを一通り説明し、「横須賀まで約3時間、この軍艦でゆっくり過ごしてください。甲板でバーベキューパーティーを用意しますので、チーズバーガーやホットドッグをいっぱい食べましょう」と締めくくった。帰宅困難者から拍手が沸き起こった。
参加者は10人前後の小グループに分かれ、米兵に引率されて艦内各所を見学。IDカード記入所やレスキュー機器、手術室や歯科治療室、下士官&士官食堂、ベッドルームとくまなく回り、調理場ではコックが「焼きたてのチョコチップクッキーをどうぞ」と至れり尽くせりだった。
接近する船舶や航空機をキャッチする海図レーダーやコンピューターでびっしりの戦闘情報ルームは、同艦が装備する防空ミサイル「RAM」や近距離防衛システム「CIWS」などをコントロールする要だ。参加者のひとりは「21発発射できるミサイル(RAM)をデモンストレーションで動かしてくれた。装てん前のぶら下がっている実弾も見せてくれた。くいっと砲身の向きを変え上空のヘリに向けて『こうやって撃つんだよ』と真似したり。ここまで見せちゃって大丈夫かしら?と心配になった」と話した。
さんざん歩き回り腹が減ったところで艦内甲板でBBQパーティーだ。パン、ハンバーグ、チーズ、生野菜などのトレーから好きなだけ取り、セルフサービスでハンバーガーやホットドッグに仕上げる。食べ終えたころには米兵の生ギターライブが始まった。4、5曲歌った。
土産販売コーナーも設けられ、同艦オリジナルのビアジョッキやワッペン、キャップなど計13商品をそろえた。左胸に「USS TORTUGA(トーテュガ)Tokyo・2007」とプリントされたTシャツまである。「今回のイベントの記念Tシャツだよ」(米兵)という。ドルと円で買えるが、お釣りはドルしかない。
午前3時起床で訓練に参加した都職員男性は「船の大きさにびっくり。意義あることだと思うし、食事も割といけた」と話した。民間から参加した女性は「正直意外だった。エンターテイメント色が強く、ライブあり食事ありと想像とは違った防災訓練でした」と感想を述べた。
米軍&米艦船が都の防災訓練に参加するのは昨年に続き2回目。5時間超と予定を大幅にオーバーした航海は、さながら“軍艦見学ツアー”だった。(渡辺高嗣)
<別項(1)石原知事着艦セズ!>
石原知事は海上自衛隊のヘリコプターでトーテュガに着艦し、訓練を視察する予定だったが、天候不良で中止になった。
ジェイミー・ケリー在日米海軍司令官は「都知事は市民のための防災訓練を考えてくれた。彼のリーダーとしての心得、準備に直接お礼を申し上げたかった」と残念そうだった。海自の河村克則自衛艦隊幕僚長は「米海軍と訓練を積んで50年になる。ジャパン・ネイビーとUSネイビーの強い絆をお見せしたかった」と話した。
米海軍は昨年の防災訓練にフリーゲート艦「ゲイリー」を出動させた。来年はどんな艦船が参加するのか?ケリー司令官は「ジョージ・ワシントン(原子力空母)。もちろん冗談です。大事なのはどの船ということではありません」とかわした。
ルイス艦長からは、石原知事に同艦オリジナルキャップと名前入りジッポーライター、パネルが贈呈された。