夜の銀座で生きる女にとって、イベントという存在は切っても切り離せないもの。でも、私…いや、もしかしたらほとんどのホステスにとって、イベントという存在は恐怖以外の何ものでもないのかもしれない。
バースデーはもちろん、クリスマスにバレンタイン。それに加えて、春の桜祭りや夏の浴衣祭りなんて、とにかくイベントが大好きなこの街では、何かしら、季節と関連付けてイベントを開催しようとする。確かに、お祭りごとは楽しいんだけど、イベントのたびに、お客さんを呼ばないといけないプレッシャーに押し潰されそうになるホステスからすれば、たまったもんじゃない。
「来週だっけ、桜祭り?」
イベントを前に気が重くなっていた私の顔を見て、気心のしれた常連さんが話を切り出してくれた。お客様から気を使って話を振ってくれるなんて。よっぽど浮かない顔でもしていたのだろうか、私…。
「ええ、来週の週末なんです」
笑顔で答えると同時に、自分の要領の悪さに悲しくなった。せっかく、お客様から話を振ってくださったのに、どうして誘わないのよ、私。
でも、実際のところ、イベントごとを避けるお客様って少なくない。イベントというだけで、通常より金額設定は高めにされるし、店も混むから長居することもできない。何より、ホステスの人数が足りず、普段のように楽しめないとおっしゃる方も大勢いる。あえてイベントの時期だけを外して飲みにくるというお客さんも少なくはないしね。
だからこそ、イベントの日に飲みに来てってお願いするのも、ちょっと気が引けちゃって…(ホステス向きじゃないのかもね、私)。
「金曜日か土曜日の遅い時間帯しか行けないんだけど、どっちがレミちゃん的に都合いいかな?」
「えっ、来てくださるんですか!?」
「言っちゃダメなの?」
「いえ、もちろん来ていただきたいです! …ただ、イベントの日は来たくないってお客様が多いから、どうしてかなと思って…」
「それは、レミちゃんがいつも金額以上の心配りで尽くしてくれてるからだよ。だからこそ、こういうイベントのときくらいは、僕が恩返しのつもりで尽くさないとね」
ああ、何て紳士な人なんだろう。女は尽くす生き物かもしれないけど、こうしてたまに尽くされると本気でときめいてしまう。そのとき、この人にもっと尽くしてあげたいって心の底から思っちゃった。
取材・構成/LISA
アパレル企業での販売・営業、ホステス、パーティーレセプタントを経て、会話術のノウハウをいちから学ぶ。その後、これまでの経験を活かすため、フリーランスへ転身。ファッションや恋愛心理に関する連載コラムをはじめ、エッセイや小説、メディア取材など幅広い分野で活動中。
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