『RISE130』
▽3日 東京・後楽園ホール 観衆 1,800人(超満員)
「練習してないです!かじった程度ですかね。その場のひらめきでやりました」
“キック界の未来”RISEスーパーフライ級王者、田丸辰(とき・平井道場)は、芸術的に決めたセンチャイ式の左キックについて、「これぐらいはできますよ」と言わんばかりの表情でこう言ってのけた。これには報道陣も思わず笑顔。もう笑うしかない。“神童”那須川天心の再来、天心二世の呼び声の高い田丸だが、天心と“似たにおい”がするのは確か。天心も「当分負けないんじゃないですか」と発言している。今のうちに目をつけておくべきキックボクサーだ。
この日の相手は、MA日本スーパーフライ級王者の一樹。強敵だったが、試合は田丸の横綱相撲だった。ローを効果的に決めていた田丸は、センチャイ式の左キックを首元にガッチリ当ててダウンを奪取。起き上がりとともに放った左ストレートは、大きい一樹がロープまで吹っ飛ぶほど。ここでレフェリーが止めて、1R1分56秒でKO勝利。プロデビューからの連勝記録を9に伸ばした。
「チャンピオンなってから最初の試合でKOできました。僕は天心二世じゃなく田丸辰です。覚えていってください」
年上の天心を「天心“選手”」と呼ばず、「天心」とあえて呼び捨てにしたのは意識している証拠。プロとして、その心意気は評価されるべきだ。格闘技の場合、スポーツマンシップに走りすぎると、ストーリー性が生まれず、試合に感情移入しづらいことが多い。その点において、「対天心」を明確に打ち出すとは頼もしい。年内には-55kgへの転向を視野に入れていることも明らかにした。
「天心とやるには、いずれにせよ階級を上げなきゃいけないですからね。今の53kgの選手(で)も強い選手や、ファンが見たい選手とはやります。でも早くしないと置いていきますよ(笑)」
天心がいつまでキックの世界にいるのか分からない。それだけに少しでも早く天心と対戦して、強い天心に勝ち“世代交代”を実現させたい思いは強い。そんな中、明確に田丸戦をアピールしているのが、天心と同い年でTEAM TEPPENの須田翔貴だ。須田はこの日、2階級上の選手にKO勝ちを収め、次戦はランカーとの対戦が有力視されている。ここで勝てば田丸戦の実現可能性が高まるのは間違いない。
「翔貴クンは強いですね。やるだろうなとは思ってますよ」
須田戦について話を聞くとこう田丸からは返ってきた。避けられない相手と考えていることが分かる。今後の須田次第ということになるのだろう。スーパーフライ級は既に関係者が「田丸の対戦相手探し」に苦悩しており、須田への期待も大きい。しかし、田丸の視線はあくまでも「那須川天心」。これを止めるのは須田か?それとも他のランカーなのか?今年は田丸の飛躍がキック界の未来を左右すると言ってもいい。驚くような試合を見せ続けてもらいたい。
取材・文 / どら増田
写真 / 垪和さえ