リーグ連覇どころか、楽天と最下位争いを演じていたころは、ダルビッシュのメジャー入りは先送り説が強まっていた。「Bクラスなんかに終われば、いくらなんでも球団としては、ダルビッシュのメジャー入りを認めるわけにはいかないだろう。ファンが許さないだろうからね」というのが、その理由だった。
確かにその通りだろう。ダルビッシュがポスティングで円満にメジャー入りするには、誰もが納得する条件が必要となる。ベストなのは、大黒柱のダルビッシュが獅子奮迅の活躍で、チームがリーグ連覇、4年ぶりの日本一奪回に成功することだ。
「ダルビッシュは日本ハムに多大な貢献をしてくれた。本人の願いを叶えてあげて、快くメジャーに送り出してやろう」という、大義名分が成り立つからだ。
ダルビッシュ、日本ハム球団双方にとって、メジャー入りは大きなメリットがある。昨年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表の一員として緊急抑え役で活躍したダルビッシュは、メジャーリーガーと初めて対戦して、メジャー入りに傾いた。それまで「メジャーには全く興味がない。メジャーへ行くくらいならば、野球をやめる」と、事あるごとに繰り返していたダルビッシュが、最高峰のメジャー野球に魅了されたのだ。
父親ファルサさんは、エンゼルス・松井秀喜のエージェントなどで知られるアーン・テレム氏と昵懇の中でもあり、名誉も大金も手に入るダルビッシュのメジャー入りに終始積極的だった。メジャー行きへダルビッシュ父子が、ようやく足並みを揃えたのだ。
一方の日本ハムも、今季のダルビッシュの年俸3億3000万円は支払える上限に近づいており、メジャーに送り出すことに異論はない。FAでメジャー入りされてしまえば、1円にもならないが、ポスティングならば、とんでもない大金が転がり込んでくる。「松坂の落札金60億円を上回るのは間違いない」とメジャー関係者が口を揃える。実際にダルビッシュに興味を示しているのは、ヤンキースはじめ“金満球団”ばかりだから、日本人メジャーリーガー史上、空前絶後の金額になるのは間違いない。
健全経営をモットーにしている日本ハムにとっては、ダルビッシュ引き留めのために、無理して大金を支払うよりも、メジャーへ送り出して、60億円を上回る莫大な落札金を獲得する方を選択するのは、むしろ当然だろう。かつての主砲・小笠原がFA宣言して巨人入りする際にも、引き留めていないからだ。
ただ日本ハム側としてはなんとしても避けたいのは、「大金ほしさにダルビッシュをメジャーへ売ったのか」と、ファンに言われることだ。だからこそ、リーグ連覇、4年ぶりの日本一奪回という大義名分が必要になるのだ。
が、ファンとすれば、複雑な心境だろう。大黒柱のダルビッシュが1.50で防御率1位、勝ち星も9勝と伸ばしてきており、ハーラーダービートップ争いも視野に入る絶好調ぶり。チームが急浮上してきて、リーグ連覇の可能性がふくらんでくるのは、素直にうれしいだろう。だが、同時にダルビッシュのメジャー入りが現実味を帯びてくるからだ。それはハムレット的心境か。