処分内容は八百長を否定した20人が引退(退職)勧告、認めた3人が2年間の出場(出勤)停止というものだった。処分者には、引退(退職)届の提出期限が5日とされ、応じない者には、解雇や除名の厳罰を下すことを放駒理事長(元大関・魁傑)は明言している。
処分決定当初、一部親方衆からは処分軽減の声が上がり、複数の処分者は法廷闘争も辞さない姿勢を示していた。2日には大半の処分力士らが会合を開き、抗戦を確認していた。
ところが、3日に開かれた臨時の評議委員会で、一部親方衆の処分軽減案は却下。これで風向きが変わった。関与を認めていた竹縄親方(元幕内・春日錦=春日野)、十両・千代白鵬(九重)、幕下・恵那司(入間川)の3人はもちろん、否定していた19人の力士たちも次々に引退届を提出。
会見に応じた幕下・白乃波(尾上)は「やっていないが、親方に迷惑はかけられない。今後の生活もある」と涙ながらにコメント。幕下・霧の若(陸奥)は「出さないと師匠に新たな処分が下るというから」と発言。関与者を出した師匠にもすでに処分が科せられたが、弟子を説得できなかった師匠には、さらなる処分が下されるプレッシャーがかけられていたことが明らかになった。
そんななかで、ただひとり屈服しなかったのが谷川親方(元小結・海鵬=八角)。師匠の八角親方(元横綱・北勝海)から、「オレのことは気にしなくていい」と言われたという谷川親方は、「提出することは(八百長を)認めたことになる。解雇されるかもしれないが、自分の気持ちに背いてまで従うわけにはいかない。14年の現役生活で一度も八百長をしたことはない」と涙。
八百長を否定してきた力士たちは一様に、「納得はいかない。やっていない」と言いつつも引退届を提出。いくら、師匠からプレッシャーがかかっても、やっていなければ貫けばいい。引退届を出せば、暗に八百長関与を認めたことになるだろう。その背景には“退職金”という、目の前にぶら下がっている大金の存在がある。素直に引退勧告に従えば、退職金が支払われるのだ。金額は三役経験がある十両・霜鳳(時津風)で、力士養老金と勤続加算金を合わせ、約1400万円になる。
そこで、谷川親方だが、昨年7月の名古屋場所限りで現役を引退した際、約1600万円の退職金を受け取っている。谷川親方は年寄としての勤続年数が浅いため、退職勧告に従っても元々退職金は出ない。つまりは、谷川親方に関しては、退職届を出しても、解雇や除名となっても、金銭的には変わらないのだ。それが、ただひとり抗戦した理由とも見て取れる。
谷川親方は10年初場所13日目、同年春場所7日目の春日錦との取組が八百長相撲として認定を受けている。それこそ、シロかクロかは当人同士にしか分からない。訴訟については「気持ちの整理ができていない。これから考えたい」と語るにとどまった。谷川親方の処遇については、6日に開かれる理事会で協議される。
(※注※力士の地位は2月28日に発表された序列に基づいています)
(ジャーナリスト/落合一郎)