ユキチャンが南調教スタンドに現れると、ある調教師がやっかみを込めてこう話した。
「ほら、ユキチャン様のご登場だぞ。本当に真っ白でかわいい顔してるよ。それでいて2勝もするんだから、チヤホヤされて当たり前だよ。オレも携帯カメラでパシャパシャしといた方がいいかな」
冗談半分ながら、純白のドレスに身を包んだ彼女が、いまだ“色物”扱いされていることを如実に示す内容だ。
とはいえ、連勝でトライアル重賞に駒を進めてきたのだから、樫候補の一頭にのし上がったことは間違いない。その白毛馬ユキチャンの蹄跡をたどると…。
同じ白毛馬の全兄ホワイトベッセルが先に2勝を挙げていたこともあり、ユキチャンの初勝利を驚く声はそうは聞かれなかった。しかし、次のミモザ賞Vは誰もが目を丸くした。約4カ月ぶりに加え、「正直、勝ち負けまでは期待していなかった」(後藤師)完調とはいえないデキ。さらに、ダ1200mから芝2000mという極端な舞台がわり。一流馬でも屈しそうな悪条件でアッサリと白毛馬による史上初のJRA特別勝ちを収めたのだ。後藤師も驚きを隠さない。
「休み明けで一気に条件をかえるという手荒い使い方は本当はしちゃだめなんだ。しかも、状態もそこまで良くなかったでしょう。それでも2つ勝っちゃうんだから、馬が強いとしかいいようがないよ」
2勝目を挙げてからはここを目標に調整。中間は日を追うごとに「馬体に柔らかみが出ている」(後藤師)という。1週前追い切りではポリトラックで5F66秒0、ラスト1F12秒6(馬なり)。父クロフネ譲りの跳びの大きいフットワークで駆け抜ける姿に、「白毛馬=虚弱体質」という概念はもはやない。
「走らないで騒がれるのは嫌だけど、走って騒がれる分にはね。騒がれることは、もう覚悟を決めていることだし、想像以上のことをしでかしそうな期待は持っているんだ」
“泣き”のコメントが多いことで有名な指揮官にしては珍しく強気な姿勢。誰もがアッと驚く結末が待っているかもしれない。