その根拠として、月面着陸捏造説を紹介するメディアの周辺に出没する、ある奇妙な人物が存在しているという。
その人物については実名どころか活動者としての変名すら謎に包まれており、経歴についても1960年代にシカゴで宗教学の学位を取得し、世界各地の神話や伝承、民話などに深く通じた男性であることしかわかっていない。ただ、強烈な反共和党の反ニクソン(月面着陸当時の米大統領で、共和党)、消極的な民主党支持者で、民主党のジミー・カーターが共和党のフォードを破った1976年の大統領選挙において、活発な反共和党キャンペーンを展開したらしい。
月面着陸捏造説との関わりは、その大統領選挙がきっかけで、ニクソンの業績をおとしめるため、当時出版されたばかりの否定本「We Never Went to the Moon/直訳:我々は月に行ってなどいない」を紹介したり、関係者へ配布したという。そのかいがあったかなかったかはともかく、めでたくジミー・カーターが当選し、政権への強力なコネクションを得たとされる。
ところが1980年の大統領選挙ではカーターを支援せず、それから20年ほど表舞台から姿を消してしまう。どうやら1979年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、民主党ともたもとを分かったとされているようだが、健康状態の極端な悪化が原因(エイズ発見以前に発症していたとも、薬物依存の悪化とも噂されている)という見方もある。ともあれ、その人物は1990年代末に活動を再開し(別人説あり)、来る2000年の大統領選挙をにらんで月面着陸捏造説の流布に務めたものの、残念ながら共和党のブッシュ・ジュニアが当選してしまう。
ただ、大統領選挙の翌年に「Conspiracy Theory:Did We Land on the Moon?」という月面着陸捏造説に基づいたTV番組が放映されたのは、その人物が大きな力を発揮したためらしい。その番組は世界各地で紹介され、大変な反響を呼ぶとともに月面着陸捏造説が再流行するきっかけとなった。
そのため、もしも選挙期間中に放映されていたら、歴史が変わっていたかもしれないとまで評価する向きもあるようだが、ほんとうのところはわからない。
(了)