粛清人事の標的になるのは、伊原春樹ヘッドコーチと、斎藤雅樹投手コーチだ。今季惨敗しても昨年までリーグ3連覇、来季まで契約の残っている原辰徳監督をいきなり解任するわけにはいかない。監督にまで責任を及ばさないためには、ヘッドコーチが引責辞任するしかないだろう。巨人軍の不文律でもある。原第二次政権の1年目、4位に終わった06年のシーズン終了後に近藤昭仁ヘッドコーチが解任され、伊原ヘッドコーチが就任したのが最新の例だ。
それ以前にも2年の短命に終わった堀内政権下でのヘッドコーチ交代劇がある。1年目の04年、3位に終わると須藤豊ヘッドコーチが引責辞任。05年、ロッテ監督を経験している山本功児ヘッドコーチが就任したが、5位の不成績で堀内監督とともに辞任している。
今季、このままV逸すれば、伊原ヘッドコーチの引責辞任が避けられないのは、過去の例を見ても一目瞭然だろう。しかも、伊原ヘッドコーチには、尾花高夫チーフ投手コーチを巨人から追い出した大罪がある。
「尾花コーチが横浜から監督に誘われ、あいさつなしに入団を決めたと原監督が激怒したが、尾花コーチが伊原ヘッドコーチに嫌気がさしていたのも事実だ。投手陣のことまで口出しされて、『ふざけるな』と怒り心頭だったからね。そこへ、横浜から監督要請があり、飛びついた舞台裏がある」。巨人関係者がこう明かす。
確かに、伊原ヘッドコーチと尾花チーフ投手コーチの確執はチーム内外で公然の秘密になっていた。06年のシーズンオフに改造された原内閣は、当初「伊原野手総合コーチ」「尾花チーフ投手コーチ」だったのに、伊原コーチが「野手総合コーチと投手チーフコーチと、どちらが偉いのか。監督に次ぐナンバー2はオレなのか、尾花なのか」と言い出し、07年の開幕直前のオープン戦中という異例の時期に「伊原ヘッドコーチ」が誕生している。
今季の巨人の投壊が尾花投手コーチ不在にあるのは明白で、逃げられた原因の一つが伊原ヘッドコーチにあるのだから、V逸イコール解任は当然だろう。内閣大改造の新候補は、昨年連覇したワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表の原内閣のメンバーになる。
チーフ投手コーチを務めた山田久志氏(前中日監督)が、斎藤投手コーチに代わり、ヘッドコーチ兼投手コーチ。三塁コーチだった高代延博氏は、伊原ヘッドコーチに代わる作戦参謀役の内野守備走塁コーチ。この2人が最有力候補になる。もう一人、総合コーチだった伊東勤氏(元西武監督)も候補にあがるだろう。
阪神を追撃するどころか、中日にまで抜かれて死に体寸前の巨人。批判を浴びている伊原、斎藤両コーチは、自らの立場は誰よりも痛感しているだろう。記録的な酷暑だが、2人のコーチだけは、首筋にひんやりとした秋風を感じているだろう。