今回の大会ポスターにも「事件はいつも真冬の札幌で起こった!」というコピーが使われ、11年振りに復活した雪の札幌決戦を煽ったのもファンの注目を集めた。
メインでは1.4東京ドーム大会でケニー・オメガと46分45秒の激闘を制し、IWGPヘビー級王座を死守したオカダ・カズチカに、翌1.5後楽園ホール大会で鈴木軍のメンバーとともにオカダらCHAOSを急襲した鈴木みのる(以後みのる)が立ち向かう。その日2年振りに新日本マットに登場したみのるは、オカダをゴッチ式パイルドライバーでKOし宣戦布告。これをオカダが受ける形で、今大会でのタイトルマッチが決定した。
1月の秋田や前日の公開調印式でみのるは、鈴木軍のメンバーとともにオカダの膝に狙いを定めて、徹底的に攻撃。大会当日、オカダの膝はテーピングでガチガチに固められていた。オカダはケニー戦でも首筋に大きな痣を作るなどのダメージを負っていて、疲れも癒えぬまま「ファンタスティカマニア」シリーズに全戦出場という状態でシリーズを迎えただけに、満身創痍の体で札幌大会を迎えている。
「お前らが持っている宝は全部寄こせ!」
1.5後楽園大会で、新日本のリングをジャックしたみのるは、こう高らかに挑発した。その中で一番最初に狙いを定めたのが、IWGPヘビー級王座だったわけである。全日本プロレスの三冠ヘビー級王座、プロレスリング・ノアのGHCヘビー級王座を獲得してきたみのるだが、新日本のIWGPヘビー級王座はまだ獲得したことがない。新日本出身の選手なだけに、IWGPに思い入れがないと言ったら嘘になるだろう。事件が起こる雪の札幌決戦の発端となった藤原が、みのるの師匠というのも因縁を感じずにはいられない。シリーズ中、みのるも「事件を起こして欲しいんだろ?」と“事件”を匂わせていた。
事件が起こることを期待していたファンの気持ちとは裏腹に? 何も起こらないままメインを迎えた。しかしメインの試合の中で“事件”は起こった。みのるは膝十字固め、アンクルホールド、アキレス腱固め、ヒールホールドとあらゆる関節技でオカダの右足を攻めまくり、試合途中にはタイチやK.E.S.のメンバーにも介入させたり、イス攻撃などでオカダを悶絶させた。この非情な攻めに対し、会場が凍りつき“シーン現象”が起きたのだ。みのるが所属している団体である初期のパンクラスは、試合の攻防に固唾を呑むファンが静まり返る“シーン現象”が話題となっていた。理由は異なれど、現在の新日本マットで“シーン現象”が起こるのは異例で、これは事件と言ってもいい。テレビでゲスト解説を務めていた棚橋も「お客さんが静まり返っている」と会場の異変を指摘している。試合はそんな空気をドロップキックで一変させたオカダがこん身のレインメーカーで勝利。試合時間40分46秒。ケニー戦に続く40分超えの死闘となったが、まったく違う色の試合を制したことで、オカダは絶対王者に向けて大きく歩みだしたのではないだろうか。棚橋も「オカダはチャンピオンの試合をしている」とコメント。オカダは、次の挑戦者は3月に行われる「NEW JAPAN CUP 2017」(NJC)の優勝者と前置きしつつ、「ひと通り(の選手と)やったので」という理由から、闘いたい選手としてタイガーマスクWの名をあげ、ノンタイトルでのドリームマッチ実現を提唱した。
しかし、みのるとの抗争を「終結」させたいオカダに対して、インタビューブースに“立って”現れたみのるは…。
「オカダ・カズチカ、これで終わったと思うな。今日は、すべての始まりの日だ。お前たちの、お前たちの最後は、もうすぐだ。今日はすべての始まりだ。フハハハハ」
と、抗争の「始まり」を宣言。札幌大会以降の鈴木軍とCHAOSのタッグ対決も連勝を重ねている。特にみのるは引き続きオカダの右足に狙いを定め、苦痛を味合わせることで存在感をアピールしている。オカダと最短で再戦を行うには、NJCに参加し優勝するのがベストだが、NJCではCHAOS以外の選手と対戦する可能性も秘めているだけに、そこでIWGPヘビー級王座以外の「宝探し」に発展することもあり得るだろう。
今年の6月で49歳を迎えるみのるだが、層が厚く若い選手が台頭している新日本マットにおいても存在感は増すばかり。みのるの2年振りの復活は、かつて抗争を繰り広げた永田裕志ら、同世代の選手にも刺激を与えるはずで、さらなる活性化につながる。
今年、旗揚げ45周年を迎える新日本プロレス。“外敵”でありながらも“昭和の新日本プロレス”を知る男、鈴木みのるの一挙手一投足から目が離せない。
(どら増田)
写真:広瀬ゼンイチ
【新日Times Vol.55】